ワンポイント税務
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2024年5月 大家さんのための税金基礎講座
2024年贈与税改正。暦年贈与と精算課税、どっちが有利?
Q 今年(2024年)から贈与税が改正になりましたね。昨年から学んでいるのですが、もう一度シンプルに、2023年までとの違いや、どちらが節税に有利かなど、解説してください。
A 2024年の贈与税改正は、「一部は増税で、一部は減税」と評することができます。増税とは、暦年贈与の「3年内加算が7年に延長された」ことです。年数が伸びたことで節税が難しくなりました(孫などへの贈与は今まで通り)。減税とは、相続時精算課税に「年110万円までの非課税枠が創設された」ことです。これを利用することで節税できるようになりました。詳しく解説していきましょう。
ご存じのとおり、贈与税には、暦年贈与という原則と、相続時精算課税制度(以下、精算課税)という例外的な、2通りの課税方法があります。暦年贈与には年110万円の非課税枠があり、これを活用すれば、一人の子や孫に対して10年間で1,100万円を税負担なしで贈与できます。18歳以上の子や孫に年500万円を贈与した場合でも、年485,000円(控除10万円税率15%)の贈与税を負担することで、10年間で5,000万円を贈与することができます。暦年贈与が生前贈与の王道と言われた所以(ゆえん)です。
しかし暦年贈与には、亡くなる直前の駆け込み贈与を防ぐために、「亡くなる前3年間の贈与はなかったことにする」という規定がありました。これが2024年から7年に延長されました。前述の10年で5,000万円贈与の例では、改正前は3年分1,500万円の贈与がなかったこととなりますが、改正以降は7年分3,500万円に増えてしまうので、これが増税となるわけです(この改正は2024年1月1日より適用されるので、実際に7年分まで加算されるのは2031年以降)。ただし、3年より延長された期間(上の例では4年間)は100万円まで非課税という例外規定も設けられました。ともかく、10年間の暦年贈与で、節税効果が得られたのは最初の3年だけ、という結果になり得るのが今回の改正、というわけです。
一方の相続時精算課税制度とは、60歳以上の父母または祖父母が、18歳以上の相続人および孫に、通算2,500万円まで贈与しても非課税、という制度です。贈与時に税金は課税されませんが、贈与者が亡くなったとき、過去に贈与した財産はすべて遺産にプラスして相続税が計算されるので、節税にはならないことから、あまり利用されていませんでした。
しかし2024年から精算課税に「年110万円までの非課税枠」が創設されました。この110万円は、相続時に遺産にプラスされることなく、年数の制限もなく、もちろん7年以内加算などもありません。初年から贈与者が亡くなるまで、非課税で110万円を贈与し続けることができます。これによって、精算課税でも節税効果を得ることができるようになりました。ただし、精算課税を申告した後は、暦年贈与に戻ることはできません。また、暦年贈与と精算課税は相続人ごとに使い分けることができます。以上が2024年贈与税改正のあらましです。
まとめてみましょう。2023 年までは、暦年贈与を使って生前贈与するのが王道でした。精算課税には節税効果はないのですから、節税が目的なら暦年贈与を利用すればOKという、シンプルな考え方でよかったのです。しかし今回の改正で、節税に有利だった暦年贈与に、加算が7 年に延長という増税策が講じられ、節税効果のなかった精算課税に110 万円の非課税枠が創設されたことで、「どっちを選択したらよいか」の答え探しが複雑になりました。いったい、どちらの方が節税効果が高いのでしょうか?
この問いに、ひとつの正解はありません。財産総額、贈与期間、贈与金額の選択などによって節税効果が違ってくるのです。一般論では、贈与年数が短く、財産総額が少ない場合は、精算課税が有利で、反対に贈与年数が長く、財産総額が多い場合は、暦年贈与が有利となります。つまり、贈与年数が短いと、暦年贈与では7 年以内は相続財産に加算されますが、精算課税では110 万円以内の贈与は加算されないため、精算課税が有利になります。一方で、贈与年数が長い場合は、暦年贈与では適度な金額(たとえば年に500 万円)を贈与して多少の贈与税(18 歳以上の子や孫なら48
万5 千円)を払うことで相続財産を減らすことができますが、精算課税は110 万円を超える贈与は、すべて相続財産に加算されてしまうため、暦年贈与のほうが有利になるのです。
毎年コツコツ110万円以内を贈与して確実に節税できるのが精算課税。贈与者の7年以上の健在を前提に、110万円を超える贈与によって高い節税効果を得るのが暦年贈与。このようにまとめることができます。