ワンポイント税務
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2023年8月号 大家さんのための税金基礎講座
今回は弊社に依頼のあったオーナー様の中で、「共有となっている不動産を解消し納税資金も確保できた事例」を紹介させていただきます。
まず「相続対策と相続税対策」の違いについ て。相続対策というと多くの方が「相続税の対 策」と理解されると思いますが、この2つは似 て非なるものです。相続対策とは財産の有無に かかわらず、すべての方に必要です。これには 順番があり、1.現状把握、2.争続対策、3.納税資 金対策、4.相続税(節税)対策、の順に行います。 1.現状把握により財産をどのくらいもっている か、2.争続対策として相続人の間でどう分けられ るか、を検討します。この段階で相続税が発生 すると予測される場合に3.と4.へと進みます。こ れが相続税対策です。つまり相続税対策は相続 対策の一部であり、相続税が発生する場合にの み必要な節税対策ですから、すべての方が対象 にはなりません。まず、相続税の計算をして現 金で払えるかなどの、3.納税資金対策を行います。 そのうえで、相続税を生前に減らせるかなどの、 4.相続税(節税)対策を実行していきます。した がって、相続税対策は必須ではなく、重要なの はすべての家庭に関係ある相続対策となります。
母と長男、長女の3人家族が弊社に相談に訪れ ました。亡くなった父は駐車場とアパート2棟を 遺しており、すでに相続も済ませていました。
2棟のアパートの時価は同額であり、相続のとき家族が争わないよう、上記表のとおり法定相続分で遺産分割をしていました。弊社は、共有ではデメリットしかないので、早期の解決を提案しました。共有の場合は、修繕や売却のとき共有者全員の同意が必要です。母子の共有なら意思決定も容易ですが、孫の世代になると困難になります。そこで、母の生前に交換特例を利用して共有持分を解消する方法を提案しました。通常は固定資産である土地や建物を交換した場合、譲渡があったものとして譲渡所得税が課税されます。しかし、同じ種類の資産(土地と土地、建物と建物など)と交換したときに一定の要件を満たす場合には、譲渡がなかったものとする特例があります。これを「交換特例」といいますが、これを受けるには次の要件を満たす必要があります。
今回はABアパート2棟の時価が同じで、上記 の要件をすべて満たしていたので、長男はAアパ ート、長女はBアパートの持ち分の交換特例を適 用することで下の表の持分になりました。
そしてお母様に、「Aアパートは長男へ、Bア パートは長女へ」と遺言を書いてもらったので、 お母様が亡くなった時には、遺言どおり相続し て単独名義にすることができました。今回のよ うに共有となっている物件は、交換特例の適用 が受けられれば、譲渡所得税等の負担がなく単 独名義にする手続きが取れるので効果的です。
この相続では納税資金もなかったため、駐車 場の売却を前提として対策を立てました。売却 のタイミングを、お母様の相続開始前か開始後 にするかシミュレーションしたところ、開始後 の評価額の方が低かったので、相続後に売却す ることで相続税額を低くおさえて納税資金を確 保しました。お母様が亡くなってから3年10か月 以内の売却なので、相続税額の一部を取得費と する取得費加算を適用することで、譲渡所得税 の負担軽減に成功しました。さらに、ABアパー ト2棟とも老朽していたため、相続税対策として お母様の借入れで大規模なリフォームを行い、 税額の減少につなげました。現在は入居率もよ く健全経営をされています。
税理士法人レディング 代表税理士 木村英幸