ワンポイント税務
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税金基礎講座 インボイス制度と賃貸経営
税金基礎講座 インボイス制度と賃貸経営
2023年(来年)の10月1日から消費税のインボイス制度がスタートします。賃貸経営に与える影響について、大家Aさんを例に解説いたします。Aさんはアパート1棟とオフィスビル1棟を所有しています。オフィスビルの賃料収入は年間1000万円を下回っています。
消費税は原則として、事業者が「預かった消費税」から「支払った消費税」を控除して納付する制度です。消費税は基準期間(個人事業主は前々年、法人は前々事業年度)における課税売上高(消費税がかかる取引の売上高)が、1,000
万円を超えている場合には課税事業者となり納付義務があります。Aさんのように課税売上高が1,000万円以下の場合は免税事業者となり消費税の納付義務はありません。
Aさんはインボイス登録の必要があるか?
Aさんのオフィスビルの借主であるテナントBは、課税売上高1,000万円を超える課税事業者です。現在、テナントBは「預かった消費税」から「賃料として支払った消費税」を控除することができますが、インボイス制度が始まると、Aさんがインボイス制度に登録して適格請求書発行事業者となったうえで、必要な書類を提出した場合のみ、「支払った消費税」を控除することができることとなります。つまり、Aさんがインボイス制度に登録しないと、賃料で支払った消費税を控除することができなくなります。Aさんがインボイス制度に登録すれば問題ないのでは? と思うかもしれませんが、登録したAさんは強制的に課税事業者となってしまいますので、これまでは手元に残していた消費税を納付する必要がでてきてしまいます。
住居用不動産オーナーは影響をうけない
アパートやマンションなどの居住用不動産だけを所有している不動産オーナーはインボイス制度に登録する必要はありません。つまりインボイス制度の影響はないのです。これは、そもそもアパートやマンションなどの居住用不動産の賃料には消費税が課税されていないためです。
一方のオフィスビルの賃料は消費税の課税対象となりますし、その借主の多くが課税事業者であると思われますから、不動産オーナーがインボイス制度に登録しないと、賃料として支払った消費税を控除することができなくなってしまいます。そのことに不満を持つ借主は、消費税相当額を賃料から減額することを求める可能性があり、拒否されれば退去につながる場合もあります。今後Aさんは課税事業者となってインボイスの要件を満たすか、免税事業者のまま賃料減額に応ずるか、の二択になると思われます。
なお、インボイス制度には一定の猶予期間が認められています。仮にAさんがインボイス制度に登録しなかった場合でも、テナントBは2023年10月1日から2026年9月30日までは消費税相当額の80%、2026年10月1日から2029年9月30日までは消費税相当額の50%を控除することができますので、すぐに消費税相当の全額を賃料減額する必要はありません。
Aさんに面倒な手続きが必要なのか?
インボイス制度がスタートすると、売手は「適格請求書(インボイス)」を発行することになります。では、オフィスビル等のオーナーも、2023年10月1日から適格請求書(インボイス)を発行しなければならないか、というとそうではありません。賃料は、振込みや引き落としで支払われるので、その都度に請求書を発行することはほとんどありません。したがってオーナー側が契約書等に、インボイス登録後に交付される登録番号や、適用税率と消費税額を明記することで要件が満たされます。テナント側は必要項目が記載された契約書とともに、振り込みで支払っている場合は振込金受取書を、引き落としで支払っている場合は通帳を併せて保存することで、賃料で支払った消費税を控除することができます。今後、新規に賃貸借契約を結ぶ際には、従来の契約書式に登録番号や適用税率と消費税額を明記する必要があります。また既存の契約の場合でも契約を結び直す必要はなく、登録番号や適用税率、消費税額などの不足している記載項目について、別途書面やメールにて通知すれば問題ないということになっております。
インボイス制度が始まる2023年10月1日からインボイスの登録を受けるには、原則、2023年(来年)の3月31日までに税務署に申請を行う必要があります。なお、申請書を提出することに「困難な事情」があった場合は、その事情を申請書に記載し2023年9月30日までに提出すれば認められることになります。
税理士法人レディング 代表税理士 木村英幸