ワンポイント税務
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2022年10月号 税金基礎講座 相続時精算課税の活用例
アパートと月極駐車場を所有しているAさんには子供が2人います。将来の相続税対策で子供にアパートと駐車場を生前贈与しようか、と考えています。その方法とメリット・デメリットを考えたいと思います。
生前贈与には「暦年課税」と「相続時精算課税」の2種類があります。相続時精算課税は選択性ですので、特に選ばない限り暦年課税となります。暦年課税は、毎年1月1日から12月31日までに贈与された財産の合計額が110万円を超える場合に、超過累進税率(10%~55%)で課される贈与税を支払う方式です。一方の相続時精算課税は、60歳以上の父母または祖父母から18歳以上の子または孫に対して財産を贈与した場合に2,500万円までは贈与税を払わずに済む制度です。
そのまま課税を猶予されるわけではなく、贈与者が亡くなった時に贈与財産を贈与時の価額で相続財産に加算して相続税が課税されることになります。相続時精算課税制度は、一度選択すると永久にこの制度が継続されます。110万の非課税枠は使えなくなることにご留意ください。
検討している課題の基本数字は以下の通りです。
アパートの固定資産税評価額(建物) 3,500万円
駐車場の固定資産税評価額(土地) 2,500万円
アパートの収入年間1,500万円(所得600万円)
駐車場の収入年間400万円(所得300万円)
アパートと駐車場を子供2人にそれぞれ相続時精算課税で贈与する場合の評価額をみてみましょう。アパートの家屋の贈与時評価額は固定資産税評価額と同額ですが、貸家の用に供されている家屋は、その固定資産税評価額に借家権割合と賃貸割合を乗じた価額を控除して評価します。借家権割合は全国一律で30%となりますので、Aさんのアパートの建物を贈与する際の評価額は2,450万円となります。
3,500万円-(3,500万円×30%×100%)
一方の駐車場は原則として自用地の評価額になりますので、贈与時の評価額は2,500万円となアパートの固定資産税評価額(建物) 3,500万円駐車場の固定資産税評価額(土地) 2,500万円アパートの収入年間1,500万円(所得600万円)駐車場の収入年間400万円(所得300万円)ります。それぞれの評価額が2,500万円以下なので贈与税はかからないことが分かりました。しかしAさんが亡くなった場合には、贈与時の価額である4,950万円(2,450万円+2,500万円)が相続財産に加算されて相続税が課税されます。相続時精算課税による移転では、相続時に贈与時の価額で相続財産に加算されるので、不動産の移転による相続税の節税効果は難しいです。また建物の評価額は、一般的に贈与時より相続時の方が下がりますので、贈与時の高かった評価で課税されるのは「マイナスでは?」と思うかもしれません。
マイナスを埋めてあまりあるプラス効果とは
今回の相続時精算課税をAさんが適用する最大のメリットは「収益を生み出す不動産を生前贈与すること」です。収益を生み出す不動産を生前に子供などに移転すれば、その収入はすべて子供の収入となり、Aさんの財産が増えることはありません。仮に、Aさんが贈与から10年後に亡くなった場合には、所得合計900万円(600万+300万円)の10年分の9,000万円(本来は税引き後となるので金額は小さくなる)を相続財産から除外することが可能です。子供に収益を分散することで所得税の節税にもなります。
アパートの土地はどうするのか? と思われた方もいるかもしれません。今回のケースは、アパートの土地を加えると評価額が合計で2,500万円を超えてしまい、超過分には20%の贈与税が課税されてしまいますので、贈与するのは「建物のみ」とします。アパートなどの賃料は建物の所有者に入ってきますので、建物のみの贈与でも賃料はすべて子供に入りますから、土地までも贈与する必要はありません。また、土地は親名義のままですので地代の問題がでてきます。
子から親に地代を支払うこともできますが、税務上の適正地代(土地の相続税評価額の6%)でないと子供は親から借地権の贈与を受けたとみなされて借地権相当額に贈与税が課税されてしまいます。そこで、課税を受けないために無償で借りること(使用貸借)により借地権の贈与課税を避けることが可能となります。しかし、使用貸借の場合には、相続時に土地が自用地評価額になってしまうことや、小規模宅地等の特例を受けることができないなどの影響がありますので、併せて注意する必要があります。
税理士法人レディング代表税理士木村英幸