ワンポイント税務
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「笑顔相続」のための「遺言」と「付言事項」
「笑顔相続」とは残された家族の「故人への感謝」「お互いの良好な関係」「納税への安心」の3つが保たれることです。今回はそのために必要な法定遺言事項と付言事項についてお話しいたします。
一般社団法人相続診断協会代表理事小川実
笑顔相続にはまず「現状分析」が大切というお話しが前回でした。現状分析して「ご家族にとって大切な財産〇〇と〇〇に受け渡したい」と決めることと、その気持ちを相続人に伝えることが大切です。その選択を法的に有効にする方法が今回の遺言です。では、遺言が無いときの相続はどうなるのか?を説明いたします。相続が発生した時の被相続人の財産は相続人の共有となります(民法900条四)。その持分は、法定相続人が配偶者とお子さんの場合は、配偶者が2 分の1 で子供が2分の1 を等分に分けます。法定相続人がお子さん3 人だけの場合は、3 分の1ずつの相続権利を自然に取得することになります。
たとえば相続財産が大きなケーキと中くらいのケーキと小さなケーキだとします。3 人の前にそれぞれのケーキがお皿に乗っていますが、このケーキは上手に切り分けることができません。この状態で3 人が話し合いをして、大きなケーキが長男、中のケーキを長女、小さなケーキは次男が食べるという結論に簡単に達するかを考えてみて欲しいのです。「ウチの子なら簡単に話し合いがつく」かもしれませんが、多くのご家庭では難しいのが現実です。でも遺産分割というのはこういう事であり、遺言が無ければ法律で定められた権利分のケーキが欲しい、と主張されることも多いのです。
「長男が大、長女は中、次男は小」という遺言があると法定相続分より遺言が優先されます(民法908 条)。しかし、それだけでは次男の心にモヤモヤが残るかもしれません。そこで大切なことは、ケーキの分け方を決めた経緯や理由になります。ケーキの材料の小麦粉や牛乳を遠くまで買いに行きながらイチゴも育てた長男と、3 つのケーキを美味しく作ってくれた長女と、それを黙って見ていた幼かった次男ということなら、長男には多く食べて家族を支えて欲しいし、長女には料理で家族を元気にして欲しいし、次男は幼いから小さなケーキがちょうどよい、という理由が説明できます。各々の責任と貢献を明確にすることで分け方への納得感が生まれるのではないでしょうか?このモヤモヤを消すのが「付言事項」になります。
ケーキのように「相続分の指定」など財産の処分・分配のことは遺言として書くことで法的効力があり、これを法定遺言事項といいます。
これに対し付言事項は法的効力はありませんが「感謝の気持ち」や「遺言を書いた経緯」を書くことで被相続人の意思が尊重されます。その結果、相続トラブルに巻き込まれる「争族」となることを回避して笑顔相続が実現できるケースも多くなるのです。
遺言の書き方で一般的な方法には「自筆証言遺言」と「公正証書遺言」があります。自筆のメリットは、作成が簡単で費用が少ないことと遺言内容を秘密にできます。デメリットは、内容の不備で無効や紛争になったり紛失など考えられます。2019 年から財産目録をパソコンで作成可能となり、2020 年から法務局で保管できることになりました。一方の公正証書遺言は、公証人が作成して原本を公証役場で保管します。メリットは、作成と保管を公証人(役場)がやってくれるので安全で確実です。紛争も防止できます。デメリットは、費用がかかること、証人の立会いが必要なので内容が漏れる可能性が生まれることなどがあります。どの方法を選ぶかは、税理士さんなどに相談をして決めてください。
笑顔相続に大切なポイントは、
①現状把握をして自分の意思を明確にし、決めた経緯と理由を相続人に伝える。
②それを遺言という法的に有効な形にする。
③付言事項によって自分の想いとそれに伴う責任をしっかりと伝える。
以上の3 つなのです。