賃貸法律相談室
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2023年9月保証会社活用と契約解除の関係
昨今の新規賃貸借契約の締結においては、個人の連帯保証人を立てずに、家賃保証会社(以下、保証会社)の利用を条件とする契約が増えています。保証会社を利用した場合、万が一賃借人が賃料を滞納した場合でも、保証会社が滞納家賃を賃貸人に支払い、その後 保証会社が賃借人に求償請求をする、という流れで進むことが一般的です。このように賃貸人側としては、個人の保証人を設定するよりも賃料の回収が図れる可能性が高いというメリットがあります。
他方で、賃借人が賃料を滞納しても、すぐに保証会社が支払ってくれるため、賃貸人から見れば賃料の滞納額は積み上がりません。家賃を滞納して保証会社に立て替え払いさせる、ということが常態化しているような賃借人が現れた場合に、賃貸人としては、賃料の滞納を理由として賃貸借契約の解除ができるのか? という疑問が生じてきます。裁判実務においては、建物の賃貸借契約の解除が認められるためには、賃料の滞納分が3カ月以上に及んでいる、というのが一般的な基準となっています。仮に賃借人の家賃滞納が3カ月以上の長期間となり、賃貸人として信頼関係が失われたとして解除したいと考えたとき、保証会社によって形式上は滞納額が残っていない場合でも契約を解除ができるか、という問題です。これが争点となったのが、大阪高等裁判所平成25年11月22日判決の事例です。この判決の事案の概要は以下の通りです。
- ①平成23年12月15日、月額賃料7万1,000円、共益費5,000円、水道代2,000円とする賃貸借契約を締結し、その10日後の12月25日、賃借人は保証会社と保証委託契約を締結した。
- ②契約からわずか2カ月後の平成24年2月以降、賃借人は賃料の滞納を繰り返すようになり、平成24年4月分から8月分までを滞納した。
- ③そこで賃貸人は、平成24年9月に訴状で賃貸借契約解除を通知、建物明渡し訴訟を提訴した。
- ④賃借人はその後も賃料の滞納を続け、平成25年3月分まで一年分の賃料を滞納した。
- ⑤なお滞納賃料は、その都度保証会社により賃貸人に支払われている。
訴訟において賃借人側は、「滞納した賃料は保証会社が立て替えて払っているのだから、結果的に賃料の滞納はない。」と反論して、賃貸借契約の解除と明渡しについて争いました。
この事案に裁判所は、賃料の不払いを理由とした賃貸人からの賃貸借契約の解除を認めました。解除を認めた理由について裁判所は以下のように述べています。
「本件保証委託契約のような賃貸借保証委託契約は、保証会社が賃借人の賃貸人に対する賃料支払債務を保証し、賃借人が賃料の支払いを怠った場合に、保証会社が保証限度額内で賃貸人にこれを支払うこととするものであり、これにより、賃貸人にとっては安定確実な賃料収受を可能とし、賃借人にとっても容易に賃借が可能になるという利益をもたらすものであると考えられる。」
「しかし、賃貸借保証委託契約に基づく保証会社の支払いは代位弁済であって、賃借人による賃料の支払いではないから、賃貸借契約の債務不履行の有無を判断するに当たり、保証会社による代位弁済の事実を考慮することは相当でない。なぜなら、保証会社の保証はあくまでも保証委託契約に基づく保証の履行であって、これにより、賃借人の賃料の不払いという事実に消長を来すものではなく、ひいてはこれによる賃貸借契約の解除原因事実の発生という事態を妨げるものではないことは明らかである。」
裁判所の考えを簡潔にまとめると、保証会社による立て替え払いは、賃借人による賃料の支払いではないので、賃借人によって賃料が支払われない限り賃借人の債務不履行と評価すべきである、というものです。同種の事案についての最高裁判例はまだありませんが、同様の結論を取る裁判例は複数出ていますので(福岡高等裁判所平成28年2月29日判決、東京地方裁判所平成27年7月16日判決等)、裁判実務としてはこのような判断が固まりつつあると言えるでしょう。なお、保証会社を利用する賃貸借契約においては、賃料を一定期間滞納した賃借人に対し、保証会社による賃貸借契約の解除権を認める旨の契約条項を設定するという場合もあります。したがいまして、賃貸人としては万が一、賃料の滞納を繰り返す賃借人が現れた場合は、契約の解除等含め、保証会社と対応を相談して進めることになるケースが多いと思われます。弁護士 北村亮典
*この記事は、2023年7月20日時点の法令等に基づいて
書かれています。
- ①平成23年12月15日、月額賃料7万1,000円、共益費5,000円、水道代2,000円とする賃貸借契約を締結し、その10日後の12月25日、賃借人は保証会社と保証委託契約を締結した。