賃貸Q&A
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【滞納事例】300万滞納、出産、最後は生活保護
賃貸トラブルの現場レポート~防止・解決するために~
先日受託した案件は家賃の滞納額が300万円を超えていました。どうしてこんなに溜まるまで放置してしまったのでしょうか。家賃が14 万円なので入居者は2 年近く無料で部屋に住んでいるという計算になります。大家さんに伺うと、「以前、滞納した借主に督促したら自殺しちゃったのね。その時、人ってこんなに簡単に亡くなっちゃうのかと思って。実際は別のことが理由だったのですが、タイミングが良すぎて、それから督促が怖くなってしまって」とのことでした。気持ちは分かりますが、一方で滞納をそのまま放置していると、きちんと支払っている借主の方々に申し訳ないですよね。
やはり滞納は適切にきちんと督促するのが大原則です。この滞納者はまだ30 歳そこそこの女性ですが仕事は派遣で正社員ではありません。家賃も高く広いお部屋です。審査のときに不審に思わなかったのでしょうか。「犬を飼っているということで、ペット可物件が少ないので借りたい、とのことでした。連帯保証人もいたので貸してしまいました」と大家さんはうなだれていました。ご自身も審査が甘かったことは感じているものの、空室期間も長かったので貸すと
決めたようです。
空室が長引くと焦る気持ちは分かります。ただ滞納になってしまえば空けておくよりお金がかかります。空室が長引いたら「なぜ決まらないのか?」に絞って、その理由を分析・改善するタイミングです。「早く埋めたい」と思う前に良い入居者を確保する工夫をするようにしなければいけませんね。残念ながらこの自主管理の大家さんは、その努力をすることなく入居申し込みに飛びついてしまったようです。
さらに悪いことに、私がこの案件を受託した時には連帯保証人と連絡がつかなくなっていました。契約時には実印や印鑑証明書の添付を要求するのに、その後はコンタクトをとる大家さんはそう多くいません。いざトラブルになって連帯保証人に連絡をとろうと思っても電話がつながらない、引っ越しされて転居先が分からない、そんなことも十分にあり得るのです。今回も契約してから2 年後の更新が一度ありましたが、そのときにコンタクトを取っておらず連帯保証人とはまったく連絡がつかなくなっていました。とても残念なことです。連帯保証人は家主さんにとれば命綱です。契約時だけでなく、確実に命綱が機能するかどうかの確認は怠らないようにしたいものです。さて手続きに入ると滞納者は拍子抜けしてしまうほど悪びれた様子もありません。
「派遣が切れて仕事がないので払えません、それが何か?」といったふてぶてしさ。しかも私が連絡をとった直前に出産したとのことです。さらに驚くことにそのお相手とは一緒に住まず、生活保護の申請をしていると言うのです。籍は入れたものの生活費を入れてくれないので生活ができず別々に暮らしているとのことでした。きっとしばらくは大家さんに通知することなく、お相手も一緒に住んでいたのでしょう。お腹が大きくなるという変化にも大家さんが気づいていなかったということは、本当にほったらかしの状態だったようです。この彼女に生活保護が支給されることになると、新しいお部屋の初期費用や引っ越し費用も、すべて税金から支払われることになります。転居費用がないからと居座られることなく、早く出て行ってもらえたものの、血税が使われたことに複雑な心境にもなってしまいました。滞納した300 万円は「3 万円ずつ払う」と約束しましたが期待できないでしょう。回収よりも明け渡しを優先するのがセオリーなのです。入居審査は「身の丈に合っているかどうか」を冷静に判断することと、滞納額を増やすと回収できないので、早期に督促手続きするのが鉄則です。
章(あや)司法書士事務所代表太田垣章子