賃貸Q&A
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「滞納事例」連帯保証人をやめることは可能か?
今回は賃貸での連帯保証人をやめることは可能か詳しく説明します。
息子の賃貸借契約の連帯保証人になっているお母さんから相談がありました。40 代後半の息子が滞納を繰り返し、今までずっと代わりに家賃を払ってきたそうです。経済的に余裕があるわけでもなく、このままだと老後のための蓄えもなくなってしまいます。
連帯保証人を辞めることはできますか? というご質問でした。
残念ながら連帯保証人を、保証人側から一方的に辞めることはできません。そんなことができてしまうなら、滞納が発生したらみな辞めてしまいますよね。連帯保証人が辞めたい場合は、新たな連帯保証人を探してきて、その方でもいいよと家主が承諾してくれた場合には、新たな連帯保証人と家主が連帯保証契約を締結し、そこで晴れて、元々の連帯保証人は辞めることができます。ご相談者の場合は母と息子という関係ですし、現段階で滞納状態が続いているので、新たな連帯保証人になってくれるような人はおらず、おのずと辞めることはできないという状況でした。
賃借人の息子は起業していたのですが事業がうまくいかなくなったのでしょう。この1年ほど、自分では1円も家賃を払っていません。おまけに自分から金を無心してくるとき以外は、まったく連絡が取れないと言います。お母さんが会いに行っても、部屋の中から怒鳴るだけでドアを開けてくれません。メールもラインも無視。もちろん電話にも出てくれません。事業に失敗してから引きこもり状態になり、お母さんは息子の精神面も心配していました。連帯保証人を辞めることはできない、であるならば連帯保証人の立場で賃貸借契約を解除し、息子を実家に連れて帰りたいというお申し入れもありました。
しかし残念ながら、連帯保証人は賃貸借契約を解除する権利はありません。解除という法律行為は、契約の当事者しかできません。賃貸借契約の当事者とは賃貸人と賃借人です。連帯保証人は家主と連帯保証契約を結んでいる関係なので賃貸借契約の当事者ではありません。連帯保証人とは、自身の保証契約も保証人となった賃貸借契約も、両方とも解除ができないのです。
このまま息子が滞納を続けたら延々と賃料を払っていかなければなりません。シングルマザーで70 歳の高齢に差し掛かったお母さんからすると、かなりの経済的負担でした。
そんなある日、お母さんから「息子が沖縄で捕まりました」と連絡がありました。どうやら沖縄で見知らぬ人に暴行事件を起こし、逮捕されたようです。事件そのものは大したことなかったようですが、本人が攻撃的な態度をとるため、警察も被害者も示談にすることができませんでした。国選弁護士の先生は、本人の精神面の不安定さにも気づいていて、このまま措置入院することも検討していきたいとのことでした。
もし措置入院になり、それが長引けば部屋にも戻れず、賃料だけはお母さんが払い続けねばならないことは明らかです。どうしようかと思案していたら、国選弁護士の先生が必要な書類を取り付けてくれることになりました。
最終的に拘留中の本人から解約の書面を得ることができ、賃貸借契約を終了することができました。所有権放棄の一文も入れていたので、お母さんが部屋の中の物を全部処分して、家主に鍵の返却ができたのです。
逮捕という、息子にとっても母親にとっても想定外の出来事ではありましたが、いちばん良いカタチで着地することができました。「連帯保証人は賃貸借契約の解約手続きができない」。これは重要なポイントですので覚えておいて欲しいと思います。
章(あや)司法書士事務所代表太田垣章子