賃貸Q&A
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立ち退き交渉の実務・前編~累計100棟の経験から~
私は司法書士には珍しく立ち退き交渉を累計で100 棟ほど処理してきました。いまも年に7 ~ 8 棟程度のご依頼を主にハウスメーカーさんから受けています。
自慢話になってしまいますが、私の立ち退き交渉は期間も早く立ち退き料も基本最低限で終えていますので、結構な人気なのです(笑)。そんな私の実体験から、立ち退き交渉についてのイロハを2 回に分けてお届けいたします。
どんな素晴らしい物件でも必ず寿命がやってきます。そのときの家主さんの選択肢は、自分の代で取り壊すのか、次世代が取り壊すのか、それとも売るか、出口は3つしかありません。
そして「取り壊す」ときには「立ち退き交渉」という厄介な道を通り抜ける必要があります。このときに交渉を管理会社に任せる、という考えもありますが、これは「非弁行為」となる可能性が大きいのです。弁護士か、資格のある司法書士か、家主さん(家族も含めて)自らが行うべき、というのが私の見解です。
交渉する時に多くの家主さんは、入居者とのコミュニケーションが取れていたら、文句も言わず退去してくれるだろうと思いがちです。しかし考え方をガラッと変えなくてはいけません。
立ち退き交渉は「うまくいかない!」と認識してください。
まず交渉がいちばん難しいパターンは、
①相続を受けた人が立ち退き交渉をする、
②収益物件を購入して立ち退き交渉する、
この2つです。
これは両方とも元々の家主さんではないからです。相手方は何か文句を言いたいのですが、その際に「前の家主さんだったら言わなかった」とか「相続した途端に出て行けってどういうこと?」と言いやすいのです。人間関係があれば遠慮するけど、物件を譲り受けた人なので賃借人側からすると文句が言いやすい存在です。
そのため①②のタイミングで交渉するのは、できれば避けるのがお勧めです。立ち退き交渉は、まず相手を知ることです。どれだけ賃借人の情報があるかどうかが重要です。まず滞納している人は、滞納を理由に立ち退き交渉の前に出しましょう。そしてちゃんと家賃を払っている良い入居者だけ残ってから、対応を始めましょう。入居者が生活保護等を受給している場合には、福祉課の担当者の方と連携して交渉していきます。公立の学校に通っているお子さんがいらっしゃるファミリーは、春か夏休みに引っ越ししてもらえるようなタイミングで交渉するのが得策です。連帯保証人やお身内の協力が得られる場合には、うまく連携をとっていきましょう。
最初のアプローチの際は必ず書面を持って行きます。そこには家主として色々と模索したが、建物をどうしても取り壊さざるを得なくなった理由を書きます。
また、管理会社の連絡先と担当者名も明記しておきます。そこに連絡すれば事情を説明しなくても転居先を紹介するように打ち合わせをしておきます。これらを記載した書面を持って、実際に入居者のところに丁重な姿勢で伺いましょう。
在宅の場合には口頭で説明して書面も渡します。その時に「こちらでも物件探しのご協力をしますので、希望をお聞かせください」と転居先の条件等も聞きだします。もし不在の時には、書面を投函しておきます。中には怒ったり怒鳴りだす入居者もいない訳ではありません。その場合でも絶対に感情的にならないことです。「そうですよね」と入居者の思いを受け止めることが重要です。人はいつか怒鳴り疲れるので、そのタイミングまでこちらは我慢比べしましょう。ここで何か言い返してしまうと立ち退き交渉は絶対にうまくいきません。受け止めて、耐えて、そこからのスタートだと思ってください。
つづきは次回です。
章(あや)司法書士事務所代表太田垣章子