賃貸Q&A
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立ち退き交渉の実務・後編~入居者さんに寄り添う~
前回のレポートで「立ち退き交渉はうまくいかないものだ!」とお伝えしました。
今回後編をお伝え致します。
これは大家さん側に「貸してやってる」という認識が強い時に私(司法書士)がよく申し上げる注意喚起の言葉です。すべての大家さんが、そのような考えを持っている、という訳ではありません(念のために)。たとえ築古の物件であっても、住み続けているということは「引っ越ししたくない」からです。若い単身者ならいざ知らず、引っ越しとなると大変な作業が伴いますし、名義の変更などの面倒な手続きがこまごまと沢山あります。
だから「引っ越ししたくない」と考えるのです。
その方々に、大家さん側のタイミングで「転居してほしい」というのが立ち退き交渉ですから、そもそも「スムーズにいくはずがない」ということを大前提に私たちは考えて準備をします。
築古の物件を取り壊す場合、必ずと言っていいほど、入居者さんは高齢の方々です。その人たちに「次の入居先が見つかったら言ってきてね」と突き放したら、まず立ち退き交渉はうまくいきません。
一緒に探してあげる、なんなら自分の別の物件に入居してもらうくらいの心づもりというか「思いやり」が欲しいと思います。
通常ですと、管理や募集を任せている不動産会社に物件探しの協力を求め、その担当者を窓口にして進めるのが一般的です。
ただしここで要注意なのが、不動産会社の方は立ち退き交渉そのものはできない、ということです。前回も書きましたが、これは弁護士法に違反する可能性があるので、物件の管理会社もしくは次に建築を依頼する予定の不動産会社に「立ち退き交渉もして」と強要するのはお勧めできません。
大家さんが直接交渉するか、弁護士、司法書士に依頼するかとなります。立ち退き交渉を請け負う会社も見かけますが、報酬を渡す場合には非弁行為となりますのでご注意ください。
さて、いざ交渉していくと、一般的に高齢者の方々は、現在ではお部屋を借りにくくなっています。そのため大家さん側が相手の仲介の方に「今まで滞納もなく良い入居者さんでした(だから大丈夫だよ)」と伝えることで、入居を引き受ける側は安心できます。
人柄がどうか、家賃を払ってくれるかどうか、という不安を、入居申し込みを検討する大家さんは感じていますので、その不安をこちら側から取り除いてあげるということを積極的にすることで、お部屋探しがスムーズになります。
また次の転居先が決まったとしても、引っ越し作業は高齢になると大変です。私たちが交渉を請け負うときで賃借人が高齢者の場合には、大家さんの費用負担が増えるとしても、引っ越しは荷づくりと荷ほどきをやってくれる業者を選ぶようにお願いしています。
また退去してもらった後は建物を取り壊すので、部屋の中を完璧に空っぽにしてもらうことまで求めません。
長期にわたって住んでいれば荷物の量も多く、不要な物をため込んでいることも少なくありません。それをすべて撤去しなければならないとなると、これもまたハードルが高くなってしまうのです。
「必要な物以外は置いていってもらっても大丈夫ですよ」と伝えると入居者さんの負担は軽くなります。後は取り壊し前に、まとめて撤去すればいいので面倒なことはありません。引っ越しをスムーズにしてもらうためにも、入居者さんのハードルは大家さん側から下げてあげることが成功のポイントになります。
引っ越しを余儀なくされた賃借人に「今までありがとうございました」と言っていただけるためにも、寄り添ってあげる、ハードルをこちらから下げてあげる、このポイントを押さえていただきたいと思います。
章(あや)司法書士事務所代表太田垣章子