業界ニュース
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2024年8月 賃貸業界のニュースから 【業界記者対談】
週刊誌やビジネス誌に執筆するライターのA記者と不動産業界向け新聞のB記者、不動産ネットメディアの編集を手がけるC記者の3名で、大災害からはじまった2024年の、賃貸住宅業界の上半期のトピックスを語ってもらいました。
「街の不動産屋」の倒産が急増
A 2024年は元日の能登半島地震から始まった。
B 多くの家屋が被害を受け、復旧作業が難航していますが、ムービングハウスやキャンピングカーなど新しい仮設住宅の形態が登場しているようです。これらの取り組みが災害時の住宅再建策として注目されました。
C 能登半島はもともと持ち家率が9割近くあり、賃貸住宅のストックが少ない。ひとまず賃貸住宅を借りて生活を再建しようにも、受け皿になれる部屋が少ないそうです。また、高齢化も進んでいて、「高齢夫婦のみ世帯」と「高齢単身世帯」が合わせて4割程度にのぼるため、復興の担い手不足も深刻です。それにしても、他の被災地に比べて能登半島地震は情報が少なく感じました。
A 現地入りしたボランティアに話を聞いたが、地元自治体などからSNSなどへの投稿に対して自粛要請があったようだ。被災者への配慮と情報発信との両立は難しい。今は一刻も早い復興を願うしかない。
C 今年2月に発表された東京商工リサーチの調査結果では、2023年に「街の不動産屋」の倒産が急増したことが話題になりました。不動産仲介業の倒産件数は120件に達し、前年69件から7割も増加して過去最多を更新したそうです。一体、何が起きているんでしょうね。
B 調査会社によると、倒産急増の背景には引っ越し需要の減少が影響しているという見方があります。3月の賃貸契約件数が、首都圏では昨年時点で約2万3000件と、コロナ前の水準の約8割にとどまっていて、倒産増には仲介売上げ減少が影響したようです。
C そういえば、在宅勤務の普及だけでなく、大企業で異動制度の見直しが進んでいることも法人向け賃貸需要の伸び悩みの一因になっているようですね。加えて、引っ越し代の高騰や家賃上昇は個人の住み替えニーズを抑える要因になっていそうです。
A 企業の意向で転居を伴う異動が減少した影響はありそうだ。日本中が人手不足の中で、NTTやYahoo!といった大企業が転勤や単身赴任を廃止している。この動きが他の大企業から中小企業にまで進むと、法人向け賃貸需要の減少は避けられない。法人客をメインにしていた企業は方針転換を余儀なくされそうだ。
B 転居が減れば借主の入居期間が長くなる。大家さんにとって良いことだけど、新しい賃貸需要が減るのは困る。これは賃貸経営にとっては“プラマイゼロ”ということですかね。
賃貸業界の賃上げの課題は「価格転嫁」
A 2024年度の給与の賃上げについての調査が出たね。それによると、企業の85.6%が賃上げ予定らしいけど、不動産業界はどうだろう。(東京商工リサーチ・2月発表分)
B 不動産業界では賃上げ予定が76.0%と他の業界より少し低いですね。特に大企業は100%が賃上げ予定なのに対し、中小企業は73.0%で差がありました。全産業のなかで大企業と中小のギャップは不動産が一番大きかった。
C 賃上げするには「価格転嫁」が鍵になるけど、不動産業界はそれが難しく、賃上げの原資確保が課題です。実際、賃上げをしない理由に「価格転嫁できない」と答える経営者も多いようです。
B 仲介物件の賃料単価が上がれば「価格転嫁」になるんでしょうけど。
A 大阪で1000室以上の賃貸住宅を所有している法人オーナーが、毎月の管理料を1000円値上げすると通知したら入居者から猛反発を受けて驚いていたよ。そうはいっても掃除のパートさんや従業員の給料も上げないといけないから、なんとか交渉を続けているらしい。2023年はいろいろな業種で「人件費高騰」での倒産が増えたらしいし、こんな状況では無理な賃上げは経営を圧迫するリスクがあるね。
B そういった状況も踏まえて、賃上げは「ベースアップ」よりも「賞与」で対応する企業が多いようですね。
C それにしても、日本中で人手が足りず採用難が深刻化しています。伊藤忠商事のように福利厚生を手厚くするために独身寮を復活させる企業もでてきました。90年代には「持たざる経営」が流行って、寮や保養施設を手放していましたが、ショールームや防災施設を併設して、社員の生活環境を改善しつつ、企業の社会的責任を果たそうとするなど方針が変わってきています。
A 不動産業界の人手不足も深刻化している。大手ハウスメーカーでは新入社員の多くが法人営業部門への配属を望むらしい。理由は土日休みだから(笑)。次に人気があるのが住宅営業部門らしい、ここは火水休みで連休が確保できる。一番不人気なのが水土休みの賃貸住宅営業らしい。実は賃貸住宅営業が一番ボーナスが多い部署なのに、最近の若者は金だけでは動かないと古株の社員が嘆いていたよ。
C 三井不動産レジデンシャルでは社員の生活に配慮して一部店舗で日曜を休みにしているそうです。住宅関連企業は土日がかき入れ時という常識がなくなりつつあります。
B 大手でも採用に苦戦しているなかでは、中小はさらにキビしいですね。経営者も社員の給料をアップしたいのでしょうが、光熱費を始めとしてあらゆる経費が増えている状況では慎重にならざるを得ないでしょう。しかし、社会全体で給料を上げないと家賃だってあげられないのも事実です。
A 仲介や管理メインの不動産会社が人手不足になると、募集や管理を依頼している大家さんの賃貸経営にも影響しかねないね。
C 家賃アップと言えば、2023年の消費者物価指数で賃貸住宅の家賃が前年比0.1%上昇して、25年ぶりのプラスになりました。でも、実際には高騰した建築費が反映された新築物件の家賃が全体の上昇を引っ張っているみたいです。
B そんな中で東海地方の管理会社は家賃アップのための特別チームを編成して、入居者との交渉に当たっているそうです。結果はどうなのか、今年の年末に答え合わせしたいですね。
A しかし、物価高の影響で実質賃金が下がっている以上は家賃の値上げも簡単じゃないだろう。賃貸経営にとって家賃の上昇は重要だけど、全面的な上昇が期待できるのはまだ先になりそうだ。
「みんなで大家さん」に3度目の行政処分
A 投資関係でいえば、賃貸物件を小口化して投資家を募る「みんなで大家さん」にまた行政処分が下されたね。今回は大阪府と東京都から不動産特定共同事業法違反で一部業務停止だって。処分は、これで3度目だ。
B 不安に思う人も多いようで、24時間で約400名の投資家が解約希望を伝えてきたそうです。金額にすると48億円分だとか。これで解約業務も一時停止しているみたいですね。この処分で成田プロジェクトに影響が出るのでは、と心配する投資家もいました。
A そもそも成田プロジェクトとはなんだ?
B「みんなで大家さん」グループが手掛ける大規模な不動産開発プロジェクトです。成田空港の北西に位置する約45.5万平方メートルの開発用地を対象としていて、投資家から資金を募り、賃貸物件として運用することで利益を分配する仕組みです。
A 具体的にはどのような条件で募集されてる?
B 成田プロジェクトの投資商品は、想定利回り年7.0%、運用期間5年、出資金1口当たり100万円といった条件で募集されています。この時代に凄い高配当ですが、2020年11月に第1号の募集が開始されてから、累計の募集総額は1900億円を超えています。
A 巨額の資金だね。具体的に何を開発している?
B 世界トップレベルの高解像度スクリーンと音響を備えた客席5000以上のアリーナやホテル、商業施設などを成田市の森林を切り開いて開発する計画と言われています。今年5月には都内のホテルで会見も開いて、ワイドショーなどでも取り上げられていましたよ。
C 行政からの処分では、この計画の一部を変更するなどしたのに投資家に対する説明が不足していると指摘されました。「みんなで大家さん」では、この処分によってプロジェクトに影響が出ることはないと発表して、信頼回復に励んでいます。
B こういったトラブルが続くと、賃貸物件への投資全体に悪影響が出るかもしれないので、注意深く見守りたいですね。
A 7月は新紙幣の発行、8月はパリ五輪開催と続いてる。これは前向きなニュースだけど、9月には岸田首相の自民党総裁任期が切れ、11月にはアメリカ大統領選挙も控えている。波乱の予感がする。経済に大きな影響がでそうだ。
引き続き賃貸業界の動向に注目していこう。