業界ニュース
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2023年11月 賃貸業界のニュースから
基準地価からみる「半導体、インバウンド復活、鉄道整備」の影響
2023年9月19日に国土交通省が発表した基準地価から、半導体産業や鉄道路線の開業や観光客の増加などが、日本各地の地域経済と地価に影響を与えている実態を見ていきましょう。全国平均の地価は前年比1.0%の上昇でしたが、これはコロナウイルスの影響前にインバウンド観光で盛り上がっていた2019年の0.4%を上回る数値です。用途別に見ると、住宅地の地価は前年比で0.7%、商業地は1.5%でした。
北海道・熊本の地価上昇は半導体要因
北海道の千歳市、恵庭市、北広島市は、住宅地の地価上昇率で全国トップ10のうち9カ所を占める成長ぶりです。3市は札幌市に隣接しており、札幌のベッドタウンとして住宅地の開発が進んでいました。まず、北広島市に開業したプロ野球日本ハムファイターズの新本拠地の北海道ボールパークFビレッジは、観光資源の多い北海道のなかでも最もホットな観光地として注目されていて投資も続いているようです。さらに千歳市では、トヨタやソニーなど国内大手8社が出資した半導体メーカー「ラピダス」の新工場建設計画が動き出して、隣接の恵庭市を含めた周辺に5兆円もの投資が予定されて、住宅や店舗などの需要増を見越して土地取引が活発になっています。千歳市は、住宅地の上昇率で全国ランキング1~3位、7位、8位、10位にランクインと、自治体レベルでは全国で最も勢いのあるエリアといってよいでしょう。
北海道の開発に詳しい不動産投資コンサルタントによると「もともと戸建て住宅の開発が盛んなエリアだったが、ラピダス効果でかなり勢いがついた。工場だけでなく最先端半導体の研究拠点も整備される予定で、海外から赴任する研究・技術者向けの高級住宅の開発も見込まれていて投資はまだ始まったばかり」と言います。地元の不動産会社によると一部の物件の家賃は、今年に入ってから2割も上昇しているそうです。経済誌記者は「千歳市は空港が存在し、豊富な水資源と広々とした平坦な土地がある。約70ヘクタールの土地に工場建設が予定されているが、まだまだ拡大できるだけの余裕がある点が高く評価された。日本国内への半導体関連の投資はまだ続きそうで各地で招致競争が続いている」と語っています。
このように、全国1位の熊本県大津町や千歳市など、商業地の全国トップ10の半分以上が半導体生産拠点に関連しています。
インバウンドも復活の気配海外の富裕層からの人気が高い長野県白馬村では、商業地が全国で7番目に高い地価上昇率を記録しました。多くの地域の山間部が過疎化している中、白馬村は逆に人口が3.16%も増えていて、長野県内で最も高い数字となりました。2021年から2022年にかけては、コロナウイルスの影響で白馬村に住む外国人が一時帰国しましたが、コロナの落ち着きとともに戻ってきていて、その動きが地価上昇に寄与していると考えられます。岐阜県高山市は人口減少している中で土地価格が上昇しました。市内の90%以上が森林という地域ですが、古い街並みや温泉などの観光資源を目当てに外国人観光客が増加していて、市内中心部の商業地では複数のホテル建設計画があります。商業地地価が2022年は3.2%の下落だったものが、2023年は9.8%の大幅な上昇になりました。宿泊などで地域を訪れる「関係人口」が増加し、地域の不動産を活用する人が増えることで、不動産価格が上がる傾向が各地で見られます。日本全体で人口が減る中で、関係人口がこれからの不動産ビジネスに大きな影響を与えそうです。
リニア・九州新幹線の影響相模原市は市全体の平均上昇率が3.0%に達していて、前年の0.9%より高い数字になりました。特に橋本駅周辺は、リニア中央新幹線の進行に伴う地域開発と商業施設の増加が期待されているようです。リニアは工事の遅れから予定されていた2027年開業は困難な状況ですが、沿線の期待は高止まりしたままのようです。西九州新幹線(武雄温泉―長崎)の開業から1年が経ちましたが、こちらの沿線の地価にも明るい動きが見られました。長崎県諫早市にある諫早駅周辺では住宅地が0.3%も上昇し、実に24年ぶりのプラスを記録しました。商業地も0.4%上昇して30年ぶりということです。駅前の再開発も地価上昇の一因とされています。佐賀県武雄市でも住宅地が23年ぶりに上昇し、商業地も26年ぶりにマイナス圏を抜けました。このように新幹線の開業が地域経済の潮目を変えていることがわかります。
今年の基準地価には特に、半導体産業や鉄道路線の開業、観光客の増加が地域経済に与える影響が見えました。今後の不動産投資の方向性を考える上で重要なポイントとなりそうです。