業界ニュース
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2023年7月号 【業界対談】2023年賃貸住宅業界の上半期を振り返る
週刊誌やビジネス誌に執筆するライターのA記者と不動産業界向け新聞のB記者、不動産ネットメディアの編集を手がけるC記者の3名で、2023年の賃貸住宅業界の前半のトピックスを語ってもらいました。
管理会社に立入検査59社に是正指導A 今年の1月に、国交省による賃貸住宅管理業法(管理業法)に伴うパトロールがあったね。2022年に法律が全面 施行されてから管理・サブリース会社の実態調査をするのは初めてだった。
B 国交省の発表では全国97社に実施した立入検査のうち59社に是正指導があったようです。約6割が何らかの指導を受けたことになる。
A ちょっと確率が高いかな。
C 最も多かったのは、管理契約の締結時に、家賃や契約期間を記載した書面をオーナーに交付・説明する義務に対する指導です。文書の内容に不備があったり、保管に問題があったりしたようですね。
A おさらいしておくと、200戸以上の管理戸数を持つ事業者は国土交通大臣へ登録が必要になった。これで、任意の登録制度しかなかった賃貸管理業に明確な基準が作られて、賃貸不動産経営管理士という国家資格も誕生した。同時に管理業者は、今回のような立入検査などを受ける義務も生まれたわけだね。
C ちなみに指導を受けた59社はすでに是正していると国交省から発表がありました。
B サブリース契約については3月に都内の管理会社が業務停止と業務改善命令を受けました。管理業法に基づく行政処分は初めてです。この会社はサブリース契約時に法定の重要事項説明書を交付しなかったことで、2週間の業務停止命令を受けています。
A 管理業法ができたことで賃貸住宅ビジネスが社会的に認められるようになった。それと同時に責任もぐんと増したとも言えるよね。不適切な実態は監督官庁によって指導、処分がなされるし、悪質なときは社名が報じられる。
C それも業界の健全化への過程ととらえるべきで、オーナーにとっては良いことだと思いますね。
仲介の土台を揺るがす値下げ圧力B 賃貸住宅仲介を巡ってトラブルに発展しているのが、「仲介手数料無料」をうたった不動産会社です。主にYouTubeやブログなどで、視聴者向けに節約情報などを発信していた人達が、仲介手数料が0円もしくは家賃の0.3ヶ月という方式で仲介会社を立ち上げたのですが、これが波紋を広げています。
A ずいぶんと仲介手数料が安いな。
C 大家さんから広告料をもらえる物件なら手数料が無料で、それ以外は0.3ヶ月ということのようです。一見すると薄利多売のビジネスモデルに感じますが、問題になっているのは「ユーザーがインターネットで探した物件で内見が可能なら対応する」という点です。つまり「他の仲介会社がSUUMOやアットホームに出している広告に“ただ乗り”する行為ではないか?」という指摘があるんですね。
A 不動産ポータルサイトへの掲載料は安くないし、作業も手間がかかるから、仲介会社からするとたまったものじゃない、というわけだ。
C ポータルサイトの著作権を侵害する行為として非難する声もありますが、すぐに違法とはいえないのも事実のようです。しかし、道義的責任を問う声は大きくてSNSでは「こういう人達にはうちの管理物件は仲介させない」と宣言する管理会社の代表もいました。とにかく、「少しでも安く」ということで出し抜こうとする仲介会社はトラブルの種だ、と考える業界関係者も多いようです。
A オーナーにとっては空室が埋まるのが一番に違いないけど、入居者の質の問題もあるし、トラブルが起きたときの対応も気になるよね。「部屋が早く埋まるなら、どんな仲介でもいい」というわけにはいかないかもしれない。
B 仲介料の値下げ競争で、オーナーに対するサービスに差が広がるとしたら、それもオーナーが選ぶ基準のひとつとなるかもしれません。
次なる半導体バブルはどこか!?A 熊本県菊陽町の賃貸住宅市場がたいへんなことになっているらしい。
B 台湾の世界最先端の半導体メーカー、TSMCが菊陽町に巨大な工場を建設中です。工場といっても23万㎡以上もあ って、福岡PayPayドームの3倍以上の大きさ。2024年の秋には稼働が始まる予定で、現在も大型トラックが昼夜を問わず工事現場に入っているらしいです。
C 何しろTSMCやソニー、それに関連するサプライヤーたちだけで7000〜8000人の労働需要が発生していると言われています。しかし、工場の人材採用には苦戦しているとも報じられています。少しでも良い条件をそろえるため、築10年以内の物件を社宅として探して欲しいと地元の不動産会社に要求していて、業者も物件確保に苦戦しているようです。当然、新築需要も活発化していますが、菊陽町と隣の大津町は市街化調整区域が多くて、住宅が建てられる土地自体が少ない。そのため、2022年には工業用地価格が31.6%、商業用地価格が13.6%、住宅用地価格が7.7%も上昇しています。
A 5月の広島サミット前にはTSMCやインテル、マイクロンやサムスンなど世界の半導体企業7社のトップが首相官邸に集い、日本を製造・流通の要として重視していく方向が確認された。マイクロン(アメリカ)が広島工場に5000億円を投じて最新設備を導入するし、別の半導体メーカーも神奈川県内に工場を稼働する方向で動いていると報じられている。
C ウクライナ情勢が不安定な上に中国の脅威は高まっています。半導体という産業の要の製造が途切れれば、世界経済は混乱に陥る。政治、社会ともに安定感のある日本への期待は相対的に高まっています。日本全国あちこちの自治体が次の半導体バブルの恩恵にあずかろうと期待しているようです。
A 半導体工場が招致されれば、既存物件の空室は埋まって新築も建つ。下半期もどこかで景気の良い話がでるかもしれないね。
分譲値上がりでファミリー賃貸に注目A パンデミックの収束、日銀総裁交代など、そろそろ、経済に変化の兆しはないのかな。
B 今年の1月には、首都圏を中心に賃貸マンション建築を専門とする中堅建築会社が経営破綻しました。この会社は、5〜10階建ての賃貸マンションの開発に熱心に取り組み、投資家には1棟ごと売り出していました。売上高は2015年の約6億円から、わずか7年後の2022年には約105億円にまで劇的に拡大していました。
C 投資用物件の自社販売だけでなく、顧客リストを持つ不動産会社からの請負も増えていましたが、突然の倒産は業界を驚かせています。
A 一体、何があったんだ?
B 破産申立書には建築資材の高騰で赤字現場が増えたことが挙げられています。さらには、退職した幹部社員による架空取引が発覚して、金融機関からの調達条件も悪化したようです。
A 建築費は高止まりという感じだ。インフレはまだしばらく続くという声もある。景気変調の兆しは案外、こういう中堅会社の倒産にあったりするから、意識しておきたいね。
C 個人的に気になったのはNHKの「クローズアップ現代」で放映された地上げの問題です。立ち退きさせるために、腐った生の魚や肉を使ったり、夜の11時頃に来て帰らなかったり、現実の場面が生々しく放映されていました。
A 首都圏を中心にマンション用地の確保は年々難しくなってきていて、荒っぽいやり方に手を染める開発業者が増えているのは事実だ。
B バブルの頃を彷彿とさせるという声もありましたね。確かに今のマンション市場はバブル期を超えたとも言われます。一方で、バブルの頃は用地を求めて、空き地の多い郊外にどんどん広がっていたけど、今はそこまでいかない。そのため、既存の住まいを立ち退かせるという方向で先鋭化していく傾向があるのかもしれませんね。
A 今のマンションは投資家向けの商品という側面もある。投資家は土地価格が高くて、資産性のある物件しか目を向けないから、立ち退き圧力が高まるのだろうね。
C 投資家が増えすぎて、住みたいのにマンションが買えない人も多いようです。
B その分だけ賃貸住宅のニーズは高まっています。2023年1〜3月期における首都圏(東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県を含む)のファミリー向け賃貸物件の平均賃料は111,198円(前年比109.3%)でした。(LIFULL HOMES発表、サイト掲載分)。ファミリータイプは坪当たり賃料が低いので敬遠されていましたが、これからは供給も増えるかもしれません。首都圏に限ったことではないかもしれませんね。