業界ニュース
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2023年3月号 賃貸業界ニュース
「半導体工場がもたらす賃貸需要」と「退去時の忘れ物ランキング」
今回は、2つの異なる話題についてレポートいたします。ひとつめは、賃貸住宅ビジネスに大きな追い風となるかもしれない外資系ハイテク産業による工場建設についてです。
今、日本で最も賃貸住宅市場が盛り上がっているのが熊本県菊陽町でしょう。2021年に世界最先端の半導体メーカーTSMC(台湾)を中心とした企業が巨大な半導体工場の建設を発表したため、ここ数年で賃貸需要が急速に高まっています。TSMCと周辺ビジネスに関わる企業も含めた総投資額は1兆円以上ともいわれており、小さな町に巨大な変化が起きようとしています。昨年に入って工事建設が急ピッチで進んでおり、すでに1,000人以上の建設関連労働者による賃貸住宅需要があったとみられていて、最終的には7,000〜8,000人の需要があると予想されています。これによって、工場のできる菊陽町と隣接する大津町では空室が急減して、築20〜30年の築古物件であっても一括借り上げされるなど、降ってわいた好景気に包まれています。地元の事情に詳しい賃貸オーナーによると「入居率は97〜98%まで上昇して、礼金3カ月など強気の募集をするオーナーも増えている」ようです。新築物件の建築用地確保も熾烈になっており、都道府県地価調査(国土交通省)では、直近1年間での地価上昇率が31.6%と全国でトップ。ホテルやマンションに適した土地は建設計画の発表時点から比べて、価格が2倍になっている場所も珍しくないそうです。
しかし、こうした需要だけに頼った一本足打法的な不動産投資では、過去に工場撤退から空室が急増して建設費用の返済もままならない事例も多々ありました。いわゆるバブル景気に対する懸念があるわけです。一方で、半導体工場の国内への建設には政府から4,760億円の補助金(経産省)も投下されているため、短期間の撤退の可能性は少なく需要は手堅い、という予想もあります。株式専門メディアの記者は、「中国の政治的リスクへの警戒が高まるなかで、日本国内における半導体確保は国策といえます。また、世界のハイテク産業においても、中国本土や有事が懸念される台湾以外での工場用地確保の重要性が認識されており、政治的なリスクの少ない日本が注目されだしています。今後も外資系企業による大規模な投資を期待する声も多く、熊本に限らず全国的に工場需要が高まっていく可能性があります」と語っています。
今年の1月にはTSMCが、日本に二つ目の半導体工場の建設を検討していると明らかにしており、熊本発の賃貸需要は全国の関係者にとって気になる動きになってきました。
不動産ポータルサイトのアットホーム(東京都大田区)が、不動産業界で働く人を対象に「賃貸の退去時に見落としがちなこと&忘れ物」を調査してランキング形式で紹介しているのですが、その結果が現代を反映していて興味深いので紹介します。まず、借主が退去時に見落とすのは、「インターネットショッピングの住所変更」(21.5%が回答・以下同)が最も多く、2位の「郵便物の転送手続き」(18.8%)を抑えてトップになりました。3位は「火災・地震保険の解約手続き」(17.7%)でした。ネット通販についてはAmazon(アマゾン)や楽天だけでなく、複数の通販サイトごとに住所を登録しているため、そのうちのどれかで変更をし忘れる人が多いようです。さらに、宅配ボックスや「置き配」の普及など非対面での受け渡しが増えると、届け先が退去済みであることを配送業者が気付きにくく、ボックス内や廊下に置かれた荷物が何日も引き取りされずに、連絡を受けた大家さんや管理会社が対応することがしばしばあるようです。退去した人の荷物を保管したり転送したりするのはいかにも面倒です。このような誤配送を防ぐために、退去時にネット通販サイトの住所を漏れなく変更してもらうことを徹底する必要がある、としています。
つぎに、退去時に多い忘れ物ランキングも興味深い結果になりました。1位は「物干し竿」(42.2%)、2位は自転車(23.3%)、そして3位はまたしても「郵便物・宅配ボックスの中身」(21.5%)でした。自転車や物干し竿は残置物の定番ですが、これらは粗大ゴミ扱いとして簡単に捨てられない自治体も多く、処分するのは意外に手間です。やはり、事前に入居者側で処分してもらえるように徹底したいものです。
退去者の忘れ物は新しい入居者を迎え入れるための準備の足を引っ張ります。立つ鳥に跡を濁させないように、さらに声かけや意識付けをしておきましょう、という調査結果でした。