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2022年11月号 「徒歩〇分」表示の新ルール。改正された不動産表示
厚生労働省「国民健康・栄養調査報告」(令和元年)によると、一日の平均歩数は男性6,793歩、女性5,832歩だそうです。
これを20~64歳に限ると、男性7,864歩、女性6,685歩だったものが、65歳以上では男性5,396歩、女性4,656歩にまで減少して、高齢になるほど歩く量が減ることを示しています。やはり歩くのは疲れるので、目的地は少しでも近いほうがよいと考えてしまいますね。不動産においても「徒歩何分」という条件が家賃や空室率に大きく影響します。この「歩く」ことは自然すぎて普段は速度を意識することはありませんが、不動産広告では「分速=80メートル(m)」を基本とすることが不動産公正取引委員会によって決められています。最寄り駅から10分と標記される時は道路距離で800m未満でなければならないのです。そして2022年9月1日から、不動産広告について定めた「不動産の表示に関する公正競争規約(以下:表示規約)」及び「表示規約施行規則」が改正され「徒歩〇分」などの扱いがより厳密になりました。
例えば駅から物件までの距離を測るとき、「どこからどこまで」というポイントを決める必要がありますが、今までの規制は少しあいまいでした。そこで改正規約では、物件の起点を「建物の入り口」と明記しました。敷地の入り口は不可となります。一方の、駅やその他の施設(バス停など)の起点は「その施設の出入り口」と明記されました。駅の場合は改札口という理解でよいのでしょうか。あいまいだった部分が明確になったことで、例えば広い敷地の物件の場合は、敷地の入り口ではなく建物の入り口が起点となるので、これまでより何十メートルか距離が増えるケースもありそうです。同じ敷地内にA棟B棟がある場合も所要時間が異なるケースが多くなるでしょう。駅だけでなく最寄りのスーパーや学校などにも規定があり、「スーパーまで300m」などと物件からの道路距離だけが認められてきましたが、今後は「スーパーまで徒歩4分」などの標記も使えるようになりました。その際にも前述の起点と着点の規定が当てはまります。
物件名に「〇〇海岸」「〇〇川」が増える?
規則は強化ばかりではなく緩和されたものもあります。イメージアップのために物件名に地域の名称を入れているケースがありますが、今までは、物件が公園、庭園、旧跡等から直線で300m以内にあれば、その名称を使用できていました。そこに海(海岸)、湖沼若しくは河川の岸なども加わりました。これからは、「○○海岸」「○○川」などの入った物件名が増えるかもしれません。また、街道の名称は、これまでは物件が道路に面していないと使用できないこととしていましたが、直線で50m以内であれば使用できるように緩和されました。同じく、通りや街道名を取り入れた物件が増えそうです。
新築物件が募集しやすくなる変更もあります。これまで建物が未完成の場合に広告表示できる建物写真は、「規模、形質及び外観が同一の他の建物の外観写真」に限り認められていました。今後はまったく同一でなくても、募集建物の施工者が過去に施工した建物であること、構造や階数や仕様が同じであること、規模や形状や色等が類似していること、以上の条件を満たす場合は写真を使えることとなりました。もちろん実際の物件ではないことを明記するなど、誤解させないように注意書きすることは必要です。
さて、このように不動産広告には厳しい規定があります。最近では、マンションのチラシに書かれた独特の文言が「マンション・ポエム(詩)」などと呼ばれ若者を中心に静かなブームとなっています。確かに不動産のチラシでは「住む」が「住まう」となったり、「聖域」(と書いて、ステージと読ませる)のように宗教的な文言が多用されたりします。なぜ、このようなイメージ的な文言ばかり使われるのでしょうか?不動産のチラシデザインを手がける会社に聞くと、不動産広告に使う文言にも規制が多く、「完璧、日本一、最高」などの最上級を意味する文言や、「バーゲンセール、破格、お買い得」などの安いという印象を与える文言を使えないので、限りある文言の中で差別化をはかろうと苦心しているためだそうです。「実際に、こういった文言を使ったほうが好反応なので止められない」とも言います。今回の改訂でも、広告で使用できる文言の解禁は見送られましたので、これからも「マンション・ポエム」と言われる表現が多用されそうです。