業界ニュース
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2021年12月号 賃貸の置き配トラブル
「置き配」をご存じでしょうか?宅配荷物を手渡しせず玄関の前や宅配ボックスに置くだけで済ませる配達方法です。
これまでの宅配では入居者と対面しての手渡しが当たり前でしたが、2020年度のネット通販(EC)利用が21.7%も急増したところ、宅配・郵便業界の人手不足が深刻化する中で、EC会社や運送会社が置き配を優先するようになっています。また、コロナ禍で非接触の受け渡しが推奨されるようになったことも置き配優先が増加したと思われます。一方で宅配ボックスが設置されていれば問題ありませんが、設置されてない物件では、各室の玄関前など共用部分に荷物を置きっ放しにするため、紛失や盗難トラブルも増えているようです。2021年10月には北海道札幌市で33歳の男が、20歳の女性が暮らしているアパートの部屋の玄関前に置き配された下着などの荷物を盗んだ疑いで逮捕されました。報道によると、商品の段ボール箱のデザインから箱の中身が女性下着であることを推測して盗んだと見られています。
SNS上では「置き配荷物が紛失している」「置き配紛失した荷物をAmazonから再送してもらったけど気持ち悪い」といった同様の盗難被害を思わせる声があふれています。ある管理会社では「同じ入居者から1ヶ月で2度も置き配が紛失したと連絡がありました。盗難犯に目を付けられていると考えて全入居者に注意喚起して、オーナーには防犯カメラの導入を提案し、共用部には犯人への警告文を掲示した」そうです。犯人は捕まっていませんし、そもそも盗難であったかもまだ分かっていません。一方で隣のアパートへの誤配など、対面手渡しなら防げたトラブルも沢山あるそうです。
この事態を受けて置き配の部分的禁止を考える人もでてきました。東海地方の賃貸住宅オーナーは盗難などのトラブルを予想して、公道から見えやすい1階の入居者は置き配を利用しないようお願いしたそうです。オーナーの立場ではトラブルとなる置き配は全面禁止したいところのようですが、EC利用は今後も右肩上がりで増加することが予想されるため、配達業者への負荷を減らすだけでなく、入居者の利便性も考えれば置き配を全面禁止しない妥協案でとどめているそうです。
国交省は置き配検討会を設置
急速に定着しつつある置き配ですが、新しい生活様式として国交省も検討を重ねています。2019年から有識者とともに置き配検討会を設置し、「置き配の現状と実施に向けたポイント」をまとめました。そこでは置き配の効果として宅配事業者やEC事業者の生産性向上だけでなく、消費者にも「在、不在を問わず、また非対面であるため、行動や時間の制限がなくなり配達員との対面も不要となる。」という、ストレス低減効果があると評価しています。また、EC事業者のリスク・セキュリティ対策としてAmazonでは、置き配完了時にアプリを通じて送り先の住民へ写真を送るなどしています。楽天でも、注文金額が1万円を超える商品や医薬品などでは置き配が指定できないようにするなどの対策を取っているそうです。
宅配ボックスの人気が高まる
置き配のリスクを減らすためには宅配ボックスの利用が一番効果的かもしれません。住宅情報サイト「SUUMO」が行った調査「住まいの設備ランキング2021」(関東在住・20代・30代対象)では、今の家に「付いていなくて後悔した」と思う設備・仕様ランキングとして宅配ボックスがなんと1位になりました。今後は単身者の人気設備として、留守中でも荷物を受け取れる宅配ボックスが当たり前になる時代も近そうです。一方で既存の賃貸住宅の中には、敷地などの関係で宅配ボックスを新設することができない物件も多くあります。そこで注目されているのが、荷物を包み込む置き配バッグの「OKIPPA(オキッパ)」です。これをドアノブに吊り下げておくことで、配送員がバッグを広げ荷物を入れ鍵をかけて置いておくことができる仕組みです。またオーナーの初期費用や維持費用なしで宅配ボックスと同じ環境を入居者に提供できるプログラムも用意されているそうです。
非接触で荷物を受け取れるニーズは入居者に確実にありますので、置き配によるトラブルリスクを減らすためのルール作りや仕組み化が業界で進みそうです。