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2021年10月号 災害時に役立つ賃貸住宅 ~みなし仮設とは?~
日本列島は様々な災害に見舞われます。地震や台風だけでなく、梅雨終盤の大雨も定番化してしまいました。今年7月に大規模な土石流が発生した熱海市では、「みなし仮設」と呼ばれる民間賃貸住宅が、住む家を失った被災者の受け皿になっています。災害と賃貸住宅の関係はこれまで以上に深くなっています。
土石流で被災した熱海で賃貸住宅が人気
山肌がそのまま崩れ落ちていく衝撃的な映像によって伝えられた熱海市伊豆山地区の土石流災害では、26名の尊い命が失われ、本稿執筆時点でもお一人が行方不明となっています。また約50棟の住宅が全壊し、土石流発生から2ヶ月となった9月3日時点でも153名が避難している状態です。今までも、各地の自治体は災害発生時には学校体育館や公民館などを避難所として利用してきました。しかし簡易な間仕切りを隔てただけで、見知らぬ世帯が共同で生活する環境はストレスがかかります。その精神的な負担は非常に大きく、東日本大震災被災地では、岩手、宮城、福島の3県で震災関連死とされた1,263人のうち、638人の原因が「避難所等における生活の肉体・精神的疲労」だったという調査もあります。(復興庁、震災発生から1年後までの統計)こうした事情に加えて、新型コロナウィルス感染防止のための対策も必要となり、熱海市では、市内の有名ホテル・熱海金城館を借り上げて避難所として使っています。ホテルの借り上げ費用はかかりますが、避難所でコロナ感染が拡がると地域の医療体制の負荷になります。被災者のストレスとコロナ対策への目配せからの柔軟な判断といえそうです。
また、熱海市では県営・公営住宅だけでなく、賃貸住宅を「みなし仮設住宅」として活用しています。土地柄ですが県営・公営住宅は傾斜地にあることが多く、高齢者には不便で、生活しにくい場所という声もあり、民間賃貸住宅に人気が集まっていると報道されています。職場や買い物施設など生活基盤に近いところにある、民間の賃貸住宅の強みが求められているようです。地元の関係者によると熱海は空き家率が52.7%(2018年3月時点、平成30年住宅・土地統計調査結果=総務省統計局)もあり、約1万8000戸の空き家があるそうです。しかし、ひとたび、今回のような災害が発生すれば、逆に住宅確保が課題になるため、住宅の需給バランスをとることがいかに難しいかがわかります。ある不動産関係者は「日本の空き家の多さが大きく取り上げられるが、災害発生時にはすぐに引っ越せる家がある環境は役に立ちます。空き家を減らしながら、セーフティネットとして活用できる家を残し、柔軟に使える仕組みが必要」と語ります。
京都市では賃貸住宅の災害利用で協定
災害時にスムーズに民間の賃貸住宅を活用できる施策についての報道もありました。不動産関連の事業者団体は、災害発生時に賃貸住宅を被災者に提供するための協定を京都市と結びました。報道によると、協定は震災や台風、水害、原子力災害などが発生した際に京都市からの要請に基づき、賃貸住宅を応急仮設住宅として提供するものです。京都市では、京都市左京区の花折断層で地震がおきた場合に、実に約3万5000戸の住民が住む家を失うと試算しています。報道では、現在の段階で約5万4600戸が災害時に提供可能とのことです。京都府も業界団体と同様の協定を締結しています。このような、災害発生時を見据えた対策の必要性が高まっています。
みなし仮設を柔軟に利用できる仕組み
大災害が発生すると行政が仮設住宅を設置し被災者に提供しますが、2011年の東日本大震災の際には、被災者が民間の賃貸住宅を借り、行政が家賃を補填する「みなし仮設」が注目されるようになりました。みなし仮設の問題点としては、被災者がバラバラに住むことでご近所付き合いが途絶え、コミュニティが維持できないといった指摘もありますが、公営住宅は完成まで長い時間がかかるため、これからも民間賃貸を活用した被災者支援が必要なのは間違いありません。日本のどこにいても安全といえない時代に災害時にも役立つ、賃貸住宅の価値が高まっています。