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2021年7月号 事故物件に関するガイドラインとは?
事故物件に関するガイドラインとは?~国交省作成案を読み解く。
入居者らの死亡事故があった心理的瑕疵物件(事故物件)について、次以降の入居者に告知すべき内容をまとめたガイドライン案を国交省が5月20日に発表しました。国が事故物件についての告知基準などをまとめたのは初めてです。事故物件は宅地建物取引業法で告知すべきと定められていますが、告知する期間や内容、範囲などが定められていなく「2年以内は告知」、「事故発生から2人目の入居者からは告知しない」といった独自ルールや俗説がまかり通っていました。また、事故物件を明示するサイト「大島てる」が登場し、入居者にもその存在が広く知られるようになったため、トラブルが顕在化してきました。こうした事態を受けて、国交省では昨年2月から5回の会合を行い、議論を続けていましたが内容は非公開で、議論の行方が注目されていた矢先の今回の発表でした。発表は全国紙にも広く報じられており、全国的な関心の高さを裏付けています。
ガイドライン案の特徴を、賃貸オーナーや管理会社に影響するものを中心にまとめました。
今回のガイドライン案について不動産業界関係者はおおむね好意的です。「いつも、どこまで告知すべきか悩みながらやってきた。ガイドラインで明確になるならありがたい。病死、転倒、誤嚥による死亡は告知不要となっていて、高齢社会に適合していると思います」(都内・不動産オーナー)。「今まではトラブルが怖いので、『前の前の前の前の入居者が亡くなった』とまで告知していました。部屋探しする側も、どう捉えてよいのかわからないような反応で、ここまでやる必要があるのかと常に疑問でした」(都内・賃貸仲介会社社員)
一方で、ネット上では反発する入居者の声もあります。「大家目線ではいい指針だが、借りる方からすると嫌だ」、「殺人、自殺で3年は短い。10年は必要」などの声がありました。また、不動産事業者からも「3年間の告知期間中は家賃を減額して募集することになる。どれくらい下げたら良いのかも悩むところ。何らかの指針があると期待していたが、まだ現場で試行錯誤が必要になると思う」と語っています。一般に事件、事故については、人口が多く入居者の入れ替わりも頻繁な都会では記憶が薄れるのが早い一方で、地方は入れ替わりも少なく、記憶は定着しやすいとも思われます。こうした減額の指針は地域差が大きく、統一した見解をまとめるのは困難のようです。また売買時はトラブルになったときの金額が大きいため、統一の見解がまとまりませんでした。
今回のガイドラインでは、「現時点で妥当と考えられる一般的な基準」としており、「将来においては、本ガイドラインで示した基準が妥当でなくなる可能性も想定される。本ガイドラインは、新たな判例や取引実務の変化を踏まえるとともに、社会情勢や人々の意識の変化に応じて、適時に見直しを行うこと」としており、事故物件のすべてを解決できるものではないと明確に記しています。同時に「宅地建物取引業者のみならず、消費者、賃貸事業者等の取引当事者の判断においても参考にされ、トラブルの未然防止につながることが期待される」とあり、ガイドラインの判定が不動産市場成熟のきっかけになるものと考えているようです。
さらに留意しておきたいのは、「買主・借主の意向を事前に十分把握し、いわゆる心理的瑕疵の存在を重要視することを認識した場合には特に慎重に対応することが望ましい」ともあり、特に聞かれた場合などは可能な限りな情報を伝えることが不動産ビジネスに関わる人の責務であることです。トラブル防止のためにも、誠意のある対応が必要なのは間違いありません。
今回のガイドライン案は、不動産鑑定士や消費者団体メンバー、弁護士などが参加した委員会でまとめました。6月18日までは広く意見を募り、寄せられた意見を反映してまとめていくそうです。何を不快に感じるかは人それぞれ、だからこそ統一の指針作成が進んでいることは大きな一歩と評価したいところです。