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2021年6月 「かぼちゃの馬車事件」とスルガ銀行 

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  • 2021年6月号 「かぼちゃの馬車事件」とスルガ銀行 

        

    賃貸業界ニュースから「かぼちゃの馬車事件」とスルガ銀行



     シェアハウスへの投資で約束されたサブリース家賃が支払われず、多くのサラリーマン投資家が被害にあった「かぼちゃの馬車事件」。問題が表面化してから3年半が経過しました。すでに一部のオーナーは融資先のスルガ銀行と協議のうえ、物件を引き渡すかわりに借金を棒引きする代物弁済で解決を図っています。スルガ銀行は今年8月までを交渉期限として、残りのオーナーとも問題解決を進めたい意向を表明しています。オーナーの被害について回復のめどが立ちつつある今、「かぼちゃの馬車事件」が残した教訓について振り返ります。



     女性専用シェアハウスとして販売された かぼちゃの馬車が最初に注目されたのは2017年11月のことです。オーナーから物件をサブリースしていたスマートデイズが資金繰りに行き詰まり、保証賃料の支払いができない状態に陥りました。かぼちゃの馬車は、オーナーが土地を購入し、指定された建築会社と契約し建てたものを、スマートデイズが借り上げる形で運用されてきました。しかし、実際にはスマートデイズが謳うような女性専用のシェアハウス市場はなく、入居率は常に逆ざや状態で、新しい物件の販売代金をもとにオーナーにサブリース賃料を支払う自転車操業状態でした。(スマートデイズはオーナー向けの集会で再建案を発表しますが、結局2018年5月に倒産します。)

     2018年3月にはロッキード事件などを手がけた河合弘之弁護士を団長に「スルガ銀行・スマートデイズ被害弁護士団」が結成され、スルガ銀行の問題点を激しく追及するようになります。追求方法は法廷闘争などではなく、スルガ銀行前のデモ活動やマスコミを通じた企業体質への批判を中心とした草の根的なものでした。こうした動きに堪(たま)りかねたスルガ銀行は2020年3月に257名、そして今年3月に285名と、物件譲渡による借金の棒引きに応じました。「投資は自己責任」という原則を覆す異例の決着となったのです。スルガ銀行は残りの約700名のオーナーとも和解の意向を示しています。






     純粋にシェアハウス事業としてかぼちゃの馬車を眺めると、その無謀さに目がいきます。当時の入居募集資料では、一人当たりの専有面積7㎡ほどに、賃料6万円、室内清掃費用3万7000円、鍵交換費用1万円、保証会社加入1万円+毎月賃料2%と、周辺相場の倍近い条件です。当然、入居者はほとんど集まらないにも関わらず、オーナー向けには年間利回り8%で、30年間のサブリース契約を結ぶと説明。さらには、将来は企業とタイアップして入居者に試供品などを使ってもらうことで家賃を無料にして、企業からのマーケティング費用だけで運営していくといった荒唐無稽な計画を披露していました。
     
     当然ながら、現在の不動産市場は かぼちゃの馬車にシビアな評価を下しています。一般的にローン返済が滞った不動産は、債権者(金融機関)が裁判所を通じて売却し、ローン残額を回収する競売手続きにかけられます。すでに東京の競売市場にはかぼちゃの馬車が流れてきています。今年になって、東京都足立区の最寄り駅から徒歩8分ほどに建てられた2階建て10戸のかぼちゃの馬車が競売にかけられています。土地には約5100万円、建物には約3000万円で合計約8100万円の抵当権がついています。オーナーが支払ったはずの頭金を含めると、新築時には約8100万円以上で取引されたはずですが、競売ではわずか2773万円で落札されました。競売に詳しい東京都内の不動産会社代表によると「この最寄り駅は都心から離れた不人気エリアで、シェアハウスとして貸し出すのは厳しい。実際に入居者はゼロ。建物の価値はないから、落札金額は土地だけの評価額でしょう」と解説します。不動産のプロがみれば、投資に見合う価値がないのは一目瞭然だったわけです。



     ある管理会社の代表は「現地も見ないで契約した人もいました。基本を理解できていない人が不動産投資に手を出してはいけません」と厳しく断じます。賃貸経営は家賃を支払う入居者がいて成り立つもの。かぼちゃの馬車事件全般からは、そうした入居者の顔が全く見えません。この事件は賃貸住宅業界に対し改めて「入居者目線と現場主義」という教訓を残しているのかもしれません。

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