賃貸経営塾
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2019.5 税金面はアパート・募集面はマンション、どちらが得?
賃貸経営の利回りを考えてみよう
今月は、現在の賃貸経営に直接の影響はないかもしれませんが、満室経営を目指すオーナー様にとって興味ある裏話を書きたいと思います
2階建ての総タイル張りで見栄えの良い賃貸住宅の入居募集をするとき、種別はアパートよりもマンションと表記した方がお客様に注目してもらえます。問い合わせも内見希望も増えるでしょう。結果として部屋が決まる確率も高まるかもしれません。では、それを目的に自由にマンションと表記できるのでしょうか?
実は、何がアパートで何がマンションかという法律上の明確な定義はありません。無いがために私たち不動産業者でもモヤモヤする場面がたくさんあります。先日も、見た目は立派なマンションなのにアパート表記しなければならない物件があり、どんなルールが存在するのか疑問に思ったので、この機会にこの問題をハッキリさせようと細かく調べてみました。
そのルールは構造で分けられており、軽量鉄骨造や木造等の建物はアパート、鉄筋コンクリート造や“その他堅固な造りの建物(ここが注目ポイント)”はマンションと定められています。さて、マンションなのかアパートなのかは構造で分けられていると申し上げましたが、私たちはどうやって構造を調べるかというと、登記簿謄本の構造欄を見ています。
では登記簿謄本の構造は誰がどうやって決めているのかというと、構造が決まる順序は次のようになっています。まず建築物が新築されるときは「こういう建物を建てますよ」という申請をし、さらに完成したら申請どおりに建築されているか建物を調査し、それを受けて建築確認済証が作成されます。その確認済証を添付書類として土地家屋調査士が表示の登記を行うのですが、その時に構造も決められるのです。
しかし、ここで注目したいのが、確認済証には軽量鉄骨造という種類はないということです。つまり、登記簿謄本で軽量鉄骨造と書かれる建物も、確認済証では鉄骨造と書かれているのです。では、どこから軽量鉄骨造という言葉が出てくるのでしょうか。ここが今回のお話しの重要なポイントになります。税金面では軽量鉄骨の方が安い
登記簿謄本上の構造の表記は税金と大きな関わりがありますのでオーナー様にとって無関係ではありません。登記の際の登録免許税や毎年かかる固定資産税の計算の基準となる固定資産評価額は、謄本に記載される構造で計算が変わってきます。鉄骨造と書かれるよりも軽量鉄骨造と書かれるほうが税金は安くなるのです。
もちろん建物の構造は勝手に決められるわけではなく、不動産登記法の規則で構造材料による区分が定められています。しかしそこには、木造、土蔵、石造、れんが造、コンクリートブロック造、鉄骨造、鉄筋コンクリート造、鉄骨鉄筋コンクリート造と、わずか8種類の構造区分しか記載されておらず、不動産登記のルールでは「上記区分に該当しない場合には新しい構造を登記することができる」となっています。そしてその主なものは法務局から登記の要領が指示されており、土地家屋調査士はその指示に従って構造を登記するそうです。
確認済証に鉄骨造と書いてあっても軽量鉄骨造と登記される場合があるのはそういう理由です。
ここからが裏話です。
ここまで調べてみると、税金面を考えると登記簿謄本には軽量鉄骨造と記載したいけど、募集上ではマンションと表示できる構造にしたい、というジレンマに陥りますが、両方を選択することはできません。
さて、ここからは裏話ですが、こんな手法をとっている事例もあるらしいのです。建物を建てる前のことですが、あらかじめ法務局に「〇〇シリーズの建物はこういう建材を使っているので登記上は軽量鉄骨で」と打ち合わせをし、その合意事項を土地家屋調査士に伝えて軽量鉄骨造で登記させます。一方で、不動産に関する広告表示を決めている公正取引協議会には、「この建物は「その他堅固な建物」に当たる構造なのでマンション表記をさせて下さい」と働きかけるのだそうです。前述の記事の中で「ここが注目ポイント」と書かせていただいた、マンション表記の定義のなかの「その他堅牢な建物」に着目した訳です。「その他堅固な建物」の定義については公正取引協議会でもはっきりとは規定されていないので、微妙なものは判断が個別対応になっているのだそうです。ここまでやらないと「軽量鉄骨造=アパート表記」という業界ルールを覆すことは出来ないのですね。
中身で勝負すれば大丈夫
私たちが新築物件の募集をするときは登記がされていませんので、ハウスメーカーなどの建設会社に「登記簿謄本は何構造になりますか?」と確認してから物件概要を作ります。今回の件を調べるきっかけとなった物件は軽量鉄骨なので業界ルール通りアパート表記をしなければなりませんでした。アパートと書くことで不利になったら嫌だなと思ったのですが、タイル張りの外観や立派なエントランス、中廊下などの写真がたくさん掲載できたおかげか、特に困ることはありませんでした。私たちが心配するほどには、今の賢い消費者の方はマンションとかアパートなどと気にしていないのかもしれません。
きちんと中身で勝負すれば大丈夫なのだと気付かされた一連の調査でした。