賃貸経営塾
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借主の費用負担で希望する住まいを提供するガイドライン
国土交通省が勧めるDIY 賃貸借という方法ですが、この普及のハードルとなっているのがDIY に必要な知識や技術の不足です。今回は、その知識不足を補ってくれるガイドラインの紹介とともに、「内装制限」という聞きなれない言葉について解説いたします。
空室対策には様々な選択肢があります。その選択肢も築年が古くなるにつれて限られてきます。高額をかけたリノベーション工事で投資資金を回収した事例もありますし、家賃の値下げや募集条件の変更というシンプルな方法で部屋を埋めることも可能でしょう。そんな中で、特に築古物件の選択肢として「借主の費用負担で借主の希望を活かした住まいを提供する」という貸し方も登場しています。国土交通省が勧めるDIY 賃貸借という方法ですが、この普及のハードルとなっているのがDIY に必要な知識や技術の不足です。今回は、その知識不足を補ってくれるガイドラインの紹介とともに、「内装制限」という聞きなれない言葉について解説いたします。
そもそも内装制限とは何なのか!?
内装制限とは、万一火災が発生した際に壁紙などの内装材が燃え広がったり有害なガスを発生したりして避難の妨げにならないよう、内装材の燃えにくさなどを規定しているルールのことです。このルールは建物の用途や規模で異なり、例えば劇場や病院、大型店舗など万一の火災時に危険性が高い建物は厳しくなっていて、これにアパートマンションの共同住宅も含まれてます。内装制限のルールでは、内装に使って良い壁紙などの防火性能が定められています。防火性能には3 種類あり、燃えにくい順番に、不燃材料、準不燃材料、難燃材料と決められています。万一の火災の時に避難する時間を稼ぐため、危険度に応じてより燃えにくい材料を使うことが決められているのです。火は上に向かって燃え広がりますので、壁と天井の内装材には規定がありますが床材にはありません。
また、例えば同じ2 階建アパートの住戸でも、101 号室は厳しく201 号室は緩かったりもします。なぜかというと、101 で火災が起きた場合は上階の201 にも被害が及びますが、201 で火災が起きた場合は上に住戸がないので、すぐには被害が広がらないからです。内装制限のルールは何の法律で決まっているのかというと、建築基準法と消防法です。また、都道府県の火災予防条例によっても異なってきます。これらは新築や増改築の建築設計の際に必須の知識となりますが、それは一級建築士などの専門家の仕事です。日本の賃貸業界は、「法に則ってきちんと完成している」建物を「退去があったら新築の状態を守って原状回復」してきた訳ですから、大家さんが内装制限に詳しくなくても何の問題もなかったのです。
「DIYしたい」という賃貸借主はいるのか?
しかし、最近は状況が少し変わってきました。「賃貸住宅でも内装に手を入れたい」という入居者ニーズを無視できなくなってきたのです。芸能人が電動ドライバーなどの工具を手に室内の壁に棚をつけたり、壁にペンキを塗ったりするテレビ番組の影響でDIY が人気となり、DIY 関連用品の売れ行きは今や1 兆円を超え、まだまだ増加中とのこと。100 円ショップのDIY コーナーを覗けば若い女性がたくさんいてペンキなどを購入しています。この傾向は賃貸入居者向けのアンケート結果にも現れています。
リクルート住まいカンパニーが2018 年5 月に実施した「賃貸契約者に見る部屋探しの実態調査」では、DIY をしてみたい人が50%を超えて、実際にDIY をやったことがある人が19.2%という結果が出ているというから驚きです。
こうしたブームに乗り、賃貸住宅に住んでいても原状回復できる範囲でDIY をする人が少しずつ増加してきています。DIY 商材店や100 円ショップでは、「賃貸でも貼ってはがせる壁紙用の糊」「壁紙の上から貼れる幅広のマスキングテープ」などが売られ始めています。しかし入居者さんのほとんどは建築の知識などありませんので、「どんなDIY ならば実施しても大丈夫なのか?」を正しく判断するのは難しいです。内装制限のある場所に燃えやすい壁紙シールを貼ったり、コンロのまわりに100 円ショップで買った木製のすのこを貼るような危険なDIY も増えていて安全性の面から問題が出てきています。共同住宅で万一火災にでもなれば、大家さんの財産である建物に被害を及ぼすだけでなく、多くの人命にも関わってしまいます。
ガイドラインで知識が得られるのか?
これらの問題を解決するため、国土交通省住宅局から「賃貸DIY ガイドラインVer.1.1」が公開されました。作成したのは「HEAD 研究会賃貸DIY ワーキンググループ」という専門家集団です。一級建築士などの専門家でもまれに間違うほど難解な内装制限についての知識を分かりやすくまとめられています。以下のサイトから、誰でも無償でダウンロードすることができます。
http://www.head-sos.jp/
ページの右側中ほどの「賃貸DIY ガイドラインダウンロード」という小さなバナーをクリックしていただくと、67 ページの見やすいカラーのデータが手に入ります。
このガイドラインでは内装制限を調べるのにフローチャート形式を採用しています。その住戸にどのようなDIY が可能なのかを建築の知識がなくても簡単に調べることが出来る内容です。これは賃貸住宅でもDIYしたいという入居者さんが安全なDIY を学べるだけでなく、DIY 可能な賃貸住宅に取り組みたい大家さんや管理会社にも役立つものとなっています。実際に、このガイドラインを参考にしながらDIY 可能な賃貸借契約の仕組みを作って、きちんと許可を得てからDIY 賃貸借をされる大家さんも出始めてきました。ガイドラインの内容を把握して、きちんと申請をすることで危険なDIYを未然に防ぐことができ、入居者さんへの安全教育にもなるということです。DIY 賃貸借を採用するかどうかは別として、このガイドラインを読んで安全な内装についての知識を得ていただくことは、賃貸経営にとって意味のあることなのではないでしょうか