賃貸経営塾
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「かぼちゃの馬車事件」に巻き込まれた大家さん
ウマい話には裏がある・増加しているサブリース契約について考えてみます。
最近世間を騒がせた「かぼちゃの馬車事件」はご存知でしょうか?私たちもニュースとしては知っていましたが、「なぜこんな話に引っかかってしまうんだろう?」と不思議でなりませんでした。しかしつい先日、被害者の方から直接お話しを伺う機会があり、一気に身近な事件になりました。今回は私たちがお聞きした内容から、なぜ「かぼちゃの馬車事件」に巻き込まれる人がいるのか、そして賃貸経営において学ぶところはないかを考えてみます。
「かぼちゃの馬車事件」とは?
まずは「かぼちゃの馬車事件」をおさらいしましょう。これはスマートデイズという企業によるシェアハウスのサブリース事業が破綻し、物件のオーナーへのサブリース賃料が未払いとなった一連の事件を指します。「かぼちゃの馬車」とは女性専用のシェアハウスのブランド名です。家賃は2万円台からで、敷金・礼金・仲介手数料がゼロ、部屋にはベッドなどの最低限の家具があり、地方からトランク一つで上京出来るというのが売りでした。家賃は格安でも管理費が高い、個室は7〜8㎡と狭い、共用のリビングが無い、などを考えると実際は割高だったのですが、部屋を決めないと就職できない人にとっては審査が緩くて有難い物件だったと思います。
このシェアハウスを購入した方達は、副収入を得たい高収入の医師や会社員などでした。「頭金なし、30年間の家賃収入を保証」という謳い文句に誘われて多くの人が契約しましたが、サブリースをしていたスマートデイズ側の資金繰りが厳しくなり、サブリース賃料の支払いがストップして、その後に経営破綻したのです。4%前後と言われる高金利ローンを組んでいた大家さん達は返済をすることができなくなり、自己破産を強いられるような状況に陥りました。
「よい投資の話があるから」と誘われた私たちが話を聞いた大家さん(仮にAさんとします)も全く同じ状況でした。なぜ契約してしまったのかをお聞きしたところ、こんな経緯を話して下さいました。最初の出会いは「良い投資の話があるのでちょっとお話しを聞いて下さい」と職場にいきなりかかってきた一本の電話から始まりました。今は高収入でも将来が不安だったAさんは、株式投資などもされており、良い投資の話と言われてつい興味が出て話しを聞いてしまったとのことでした。相手は脈ありと思ったのでしょう、もっと詳しい説明をしたいということで、職場の外で営業マンと会いました。「とても良さそうな話に思えた」ので自宅に帰って奥様に相談したところ猛反対にあい、一度はお断りをしたそうです。しかし相手も百戦錬磨の営業マン、奥様に内緒でも契約出来る、家族の将来のためなのだから後々感謝されると説得され、自分自身も乗り気だったために土地建物含めて約2億円の契約書に印鑑を押してしまいました。
Aさんは東北地方在住で、勧められたのは東京23区の物件でした。23区と言っても山手線の外側で人気地区ではなく、そこはシェアハウス激戦区なのですが土地勘がないため「東京だから安心だと思った」とのことです。そういうAさんを狙った営業マンの方が、残念ながら何枚も上手だったということです。「今思えば営業マンが出して来た事業収支の中で、手残りの金額や利回りばかりに目がいっており、賃貸物件としての基本である毎月の家賃が相場にあっているのか、ニーズがあるのかなどは全く考えていませんでした。サブリースだから安心だと勘違いしてしまっていたんですね。」と、Aさんは仰っていました。
そもそも物件数の増加に見合った入居者数が確保出来ていなかったことが、スマートデイズの経営破綻の原因でした。サブリースは赤字なのに、それを建築会社からのキックバックで補填していたのです。建築費の50%もの金額を受け取っていたというのですから、ものすごく割高な物件を販売していたことになります。経営がうまくいかないのも当たり前ですよね。サブリースだと言っても基本は賃貸経営ですから、入居する人が支払う家賃でキチンと事業が回っていくのか、ということが重要です。購入を検討した方々は、たとえばサブリースが無かった場合でも採算が取れるかどうかを考えて計算していれば、今回のような悲劇は起こらなかったでしょう。
大家さんは狙われやすい?今回の事件の被害者さんの中には、サブリース契約が解除されたことで自己破産の危機を迎えた方もいますので、Aさんもサブリース契約を解除し、新たな管理会社を見つけて今度はキチンと大家さんとして頑張ってみると仰っていました。奥様も許して下さったそうですので、家庭まで破綻の危機にならなかったことが、せめてもの救いだと思います。
この話しを聞いて「他人(ひと)事」と思う大家さんは多いと思うのですが、私たちのような不動産屋さんには、「古い自宅を建て替えて賃貸併用にしませんかという話に乗って、ニーズのないところに単身向けの賃貸を作ってしまった」「相続した他県の土地に勧められるままアパートを建てたらずっと空室続きで困っている」などという話しがちょくちょく入って来ます。