賃貸経営塾
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No.44「全国の空室率が35%を超えている」?
「全国の空室率が35%を超えている」という情報が、多くの記事やレポートで紹介されています。
「全国の空室率が35%を超えている」という情報が、多くの記事やレポートで紹介されています。そのデータは有名誌の記事でも引用されていて、多くの人が驚きと恐怖を覚えながら読んだことでしょう。「本当かな?」という疑問と、そのデータ元はどこにあるのか?という好奇心で探したところ、見つけたのが以下の記事です。「調査会社のタス(東京都・中央区)によると、首都圏のアパートの空室率は、今年(2016 年)9 月に神奈川県で36.87 %、東京23 区で34.74 %など、調査を開始して以降で最高の空室率となっている。」
どうやら、この調査会社のデータが拡散して、多くの記事で引用されているのではと推測します。本当に首都圏で空室が35%もあるのでしょうか?少し実感とかけ離れているような気がします。一方で、国は以下のようなデータを公表しています。それは、総務省統計局が5 年に一度ずつ発表している「住宅・土地統計調査」というデータで、最新は平成25 年( 2013 年) に公開されました。この平成25 年(2013 年)のデータによると、全国の賃貸住宅の空き家(部屋)数は約430 万戸で居住中の戸(室)数は約1850 万戸となっています。2つの数字を合計すると2280 万戸となり、これが日本の賃貸住宅の総数ということになります。
このデータから空室率を計算すると430 万(空室数)÷ 2280 万(賃貸住宅の総数)= 18.85 %
となります。全国平均で約20 %の空室率ということですが、どうもこれが実態に近いように感じるのは私だけでしょうか。ではなぜ、こんなにかけ離れた数値が算出されているのでしょうか?調べてみると、前述の「空室率35 %超え」のデータと総務省の数値から算出した空室率の「計算方法が違っている」ことが分かりました。
空室率20 %の方は総務省の数値を元に、空室数を賃貸住宅の全室数で割って算出しています。オーナー様や不動産会社が普通に計算する方式です。それに対して「35%超え」は、「募集戸数÷ 募集建物の総戸数」という計算をしています。つまり、空室のある建物だけの空室率を表わしていて、すべての物件を対象としたものではな
いのです。少し極端な数値が算出されて、それがあたかも全賃貸住宅の平均のように拡散されてしまったようです。もうひとつ、今後の空室率の上昇を予感させるモノとして、賃貸住宅の新築供給が止まらない、という記事が多く書かれています。昨年(2016 年)の年間の貸家着工数は41 万8000 戸で前年対比110.5 %でしたが、これは全体の前年対比106.4 %を上回る伸び率です。リーマンショック以降では最高の水準だそうです。「最高水準」と聞くと、新築供給の数がバブル期に戻ったような印象を与えますが、実はリーマン以前で最も少なかった2000 年の42.1 万戸よりも、まだ少ない水準なのです。30 年のスパンで考えると、「バブルと言うような数ではない」という結論のようですから、過剰反応する必要はないのです。
だからといって「空室率20 %なら大丈夫です」と言いたい訳ではありません。賃貸経営にとって空室という機会損失が20%というのは、決して低い数字ではありません。賃貸住宅の着工数が増え続けていることも大きな不安材料には違いありません。ただ、その不安を煽るような「意図した記事」に踊らされることのないように、堅実な賃貸経営を行って、常に空室率を平均以下に保つように努力し続けることが重要です。そのためには、常にお客様(入居者さん)に喜ばれる部屋づくりを目指していくことなのですね。「35 %と比べれば、ウチの空室率20 %はまだ良いほうだ」という考えは禁物です。