賃貸経営塾
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No.36 「コミュニティを形成する賃貸住宅とは
「コミュニティ賃貸」という言葉をお聞きになったことが有る大家さんは、どのくらいいらっ
しゃいますでしょうか。従来の賃貸経営にコミュニティ形成を組み合わせたもので、最近少し
ずつ注目されるようになって来ています。最近の分譲マンションでは、クレームの増加や管理費滞納などの問題を解決し、マ
ンション内の自治を守り資産価値を落とさないために、積極的にコミュニティ形成を
行っているところが増えてきています。マンション内の住民が参加できる季節ごとの
イベント開催などを通じて、区分所有者や管理会社が顔の見える関係になることで、
お互いに住環境や資産価値を守るという意識を育んでいるのです。
これに比べ一般的な賃貸住宅では、入居者さん同志や大家さんとのご近所付き合い
はほとんど無いという所が多いと思います。分譲マンションと比べて世帯数が少な
く、コミュニティ形成に使う予算が取りにくいので、賃貸住宅ではコミュニティ形成
は難しいと言われて来ました。ところが、賃貸住宅でもコミュニティ形成に成功した
事例が少しずつですが出て来ています。我々不動産業者の間でもまだあまり知られて
いませんが、現代の賃貸経営の様々な問題を解決する鍵がこの中に有りそうなので、
今月はその中の一つの事例についてお話しをしたいと思います。東京の下町に、最近メディアでよく取り上げられるようになった「コミュニティ賃
貸」が有ります。賃貸住宅の立地としてはさほど人気のある場所では無いのですが、
とても評価される住宅となっているそうです。大家さん一家は、もともとその場所で
家業の銭湯を経営していました。50 年続いた銭湯は、地域の住民の憩いの場となっ
ていたそうです。ところが銭湯の業務のほとんどを担っていた高齢のお父様が怪我を
されてしまい、ただでさえキツイ銭湯の仕事に従事することが難しくなってしまった
のです。息子さんたちは全員が他に仕事を持っており跡を継げる方もいなかったた
め、この一家は仕方なく廃業を決意しました。しかし、家業を廃業してしまうと固定
資産税が上がってしまうため、そのままでは土地を維持出来ません。先祖代々の土地を手放したく無かった大家さん一家は、その場所で銭湯に代わる
事業として賃貸経営を行うことに決めました。しかし、色々調べてみると、昨今の
賃貸経営は簡単ではない事を知りました。
普通に新築しても、長い目で見て経営の安定を図るのは難しいと思った一家は、自
分たちだけの特徴を出し、差別化を図ろうと考えました。色々と調べてみた結果、コ
ミュニティ形成を行って人気の賃貸住宅にしている事例がある事を知り、「自分たち
にもこれならば出来るかも」と思ったそうです。なぜならば、一家は長年町内会の活
動を支えて来ており、日頃から町の住民同志のコミュニティ形成に力を入れて来た歴
史があるからです。古い木造住宅が密集しているこの町は、火災があった際に消防車
が入って来にくいため、地域防災の観点からも町内会の活動が盛んでした。万一の時
に、どこに誰が住んでいて誰が逃げ遅れているかなどを把握する為に、お正月の餅つ
き大会、盆踊り大会、ラジオ体操、草むしりなどを通じて顔の見える関係を目指して
いたのです。
一家は、せっかく賃貸経営をするのであれば、この町内会のコミュニティを経営の
付加価値とするとともに、町のためにもなる賃貸住宅を建てたいと考えました。日頃
から町内会活動を行っていく中で、この町も少子高齢化のために町内会活動の担い手
が育たないという悩みを抱えていたのです。そこで一家は、新しく建てる賃貸住宅
に想定される入居者として、町内会が一番欲しい「住民=若い夫婦と子供」にターゲ
ットを絞ることにしました。若夫婦と子供のために、安心安全で、のびのび子育てが
出来るような住環境を作る事にしたのです。間取りや設備の工夫も行いましたが、
付加価値として、新しくこの町に住む「入居者家族」が臆せずに町内会活動に積極的
に参加出来るようにしようと考えました。
一般的に見て、賃貸住宅で町内会加入というと、どちらかというと面倒がられる向き
があると思います。賃貸住宅の入居者さんから町会費を頂けずに悩んでいる町内会も
多いですよね。
しかし、この一家は町内会加入をメリットと捉えました。素晴らしい逆転の発想で
す。そして結果的に、他の地域から転勤してくる良質な家族が、良好なご近所付き合
いや安心して子育て出来る環境を求めて集まり、「子育て応援賃貸」として人気の賃
貸住宅となりました。
テレビや雑誌やインターネットを見ていると、ご近所トラブルから事件に発展した
というニュースに遭遇することも増えました。幼稚園建設に反対するニュースを見て
も、子供のたてる音を騒音とみなす方々が少なからずいることが分かります。小さい
子供を抱えて引越しする家族にとっては、それはもはや他人事では有りません。新し
い土地でトラブルなく仲良く暮らすことが出来るという事は、ここに引っ越した家族
にとってはとても大切だったのだと思います。大家さん一家が仲介役となり、良質な
ご近所付き合いがセットになった賃貸住宅というアイデアは大成功でした。
大家さん一家だけでコミュニティ形成をするのはなかなか難しいと思いますが、町
内会の力を利用して入居者家族と地域住民を上手に繋げ、賃貸経営を安定させた事例
として、他の大家さんたちにもとても参考になると思います。